虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「鉄人28号/白昼の残月」

toshi202007-03-31

監督・脚本:今川泰宏
公式サイト:http://www.tetsujin28-movie.com/


 空に浮かぶ一片の月。夜には煌々と闇夜を照らしながら、昼間はおぼろにその姿を幻のように変える。その男もかつてこう呼ばれた。「白昼の残月」。


 昭和30年代初頭。第2次世界大戦の歴史の陰に隠れ、ひっそりと製造されたロボットがあった。その名、鉄人28号。製作者の金田博士の遺児であり少年探偵の金田正太郎少年は、そのロボットを操り、正義のためにそれを使っていた。だが、闇を切り裂いてロボット軍団が現れ、彼は危機に陥った、その時、一人の青年がその操縦桿を少年から奪い取り、鉄人を動かし始める。金田少年よりも上手く。敵ロボットを倒したその青年は名乗る。「金田ショウタロウ」と。



 ・・・みたいな感じのナレーションがオープニングで流れる<ナレーションかよ。いやまさか、延々とナレーションで説明するとは思わずに「ええええ!」とか思ってたんだけど、矢島正明氏の名調子を聞いてたらま、これはこれでありかな、と思ってしまった。この辺は本作が実質的な劇場用デビュー作の今川泰宏監督の気合い現れか、製作事情で端折ることになってしまったのかの判断が難しいところだけれども。


 作品的なことをいうと、2004年に放映されたテレビシリーズの劇場版、ではあるけれど、パラレルワールドの「もうひとつの鉄人28号」という設定。「おタカちゃん」こと高見沢秘書が普通に村雨一家の紅一点に収まり、正太郎のおっかけみたいなこともやってるという、かなり無茶な設定になっていたりとか、相違も多い。「もうひとつの戦後」というコンセプトを受け継いだ劇場用作品である。
 物語としては、血のつながらない正太郎の兄であり鉄人計画に関わった「ショウタロウ」青年との邂逅、金田博士がかつて発明した兵器「廃墟弾」をめぐる攻防、正太郎を暗殺せんとたくらむ傷痍軍人「残月」の登場、などというエピソードの連なりのなかで、描かれていく「破壊と修復」の物語がミステリー仕立て*1で語られていく。
 
 ミステリーとしてはあまりうまくできあがってはいないし、真相としては「いくらなんでも無茶だろ」というもので、ミステリー仕立てにする意味をあまり感じないんだけど、戦前に生まれたショウタロウ青年と、戦後すぐにうまれ落ちた正太郎少年という、ふたりの「しょうたろう」の交流を通して、戦争の呪縛に囚われた人間の分かちがたい溝を描き出す目論見は、なるほど、と思わせる。


 過去に囚われて日本の現状を嘆いていたショウタロウ青年が最後の最後で、未来へ向けての行動に出る段は、さすがの力業で盛り上げ、この辺は今川演出の腕力だなあ、と感心した。
 個人的にはもう少しおおらかな鉄人を見たかった気もするのだが、テレビシリーズから一貫して描いてきたテーマを再度練り直す形で完成させた執念は感じ入る。もうすこしキャラクターと話を深く練り込む余裕があれば、映画として秀作になったかもしれない。(★★★)

*1:この辺はテレビシリーズでも好んだ手法