虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「バットマン・ビギンズ」

たーのしーなー。




公式ページ


 「本当の僕はこんなんじゃないんだよ。」「そりゃああなたは子供の頃のままでしょうよ。」


 リアルなバットマン。というふれこみであった。監督が「メメント」で知られるクリストファー・ノーランってことで、ティム・バートンのダークなビジュアルとは違う、リアルかつ洗練された造形。ブルース・ウェインはかつてない端正なイケメン。スタイリッシュかつ実感的なデザイン。キャラクターの内面を掘り下げ、彼の知られざる過去を映し出した映画らしい。


 開幕は確かにそんな手応えを感じさせた。蝙蝠に起因する、幼き日の悲劇。そこから生まれたトラウマ。金持ちの坊ちゃんでありながら、救いの道を求め放浪するブルース。そして、そんな彼を導こうとする、謎の集団。名付けて「影の軍団」(ぶっちゃけチベット忍者軍団)。「恐怖を支配したい」というブルースに対して、リーアム・ニーソンは教える。大事なのは「戦う意志」だと。彼は決心する。荒廃したおらが街において正義を実行すると。
 おお、なかなかの開幕じゃないか。


 しかし、いざ彼が正義を実行しようと街へ戻る段になって、なんかそのちょっと…趣が変わってくる。彼はゴッサム・シティーに帰ると自分の会社に殴り込み。ここまで会社を拡大してきた経営陣の前ででかい面しながら現れて、「僕働きたいなー」とごねて、応用科学部に自分を配属するようねじ込む。そこの部長であるモーガン・フリーマンに対して見事な爺殺しぶりを発揮し、その最新技術の粋を集めた素材を次々ともらい受け、しこしことバットマンになる準備を始めるのである。ゲイ的な視線慈愛に満ちた視線で彼を見守る執事のアルフレッドと共に、バットマンスーツに加工を加えていくブルース。その作業をしている彼の楽しそうなこと。


 つーかその屈託のなさ加減はなんだ!?遠足行く前の小学生か!


 リアルに徹すれば徹するほど、加速していく「手遊び」感覚。しこしこと手裏剣磨いたり、ハーネスを改造して仮面ライダーみたいなベルト作ったり、バット・モービルの原型となる装甲車のブースターを全開にしてご満悦なブルースにもう序盤の陰影はない。子供だ。ここにいるのは、金にものを言わせてヒーローになろうとする、子供がそこにいる。この見事なまでの「ごっこ」ぶりが今までの重厚さをぶち壊す。見事なまでに「道楽」ライクなバットマンになっていくのである。


 いや、その出撃前の準備のわくわくぶりこそが、この映画の真骨頂だったりする。


 その代わり、ヒーローとして暗躍する段になると、テンションががくんと下がる。台詞で「演出とハッタリが重要だー」みたいなことをブルース・ウェインに言わせて、その段取りまでが出来るまでをご丁寧に見せたのが特に幻滅だな。んなもん種明かしすんなよ。マギー司郎か。
 街で小金を稼ぐヤクザとか、クスリで幻覚見せて恐怖を植え付ける男とか、敵も微妙にしょぼくて、なんかこう、リアルの意味をはき違えた造形のキャラばっかり出てくるのはも頂けない。別にバートン的狂気を孕む必要はないが、もうちょい洒落っけがあってもいいじゃないか。


 この安っぽい造形がますます、「ごっこ」感覚を加速する。金持ち道楽なヒーロー稼業映画でありました。…それをノーラン監督が望んでたわけではなかろうが。(★★★)