バラとタキシードとリチャード・ギア
「俺と踊ってくれないか。」
「SHALL WE DANCE?」を見た。
言わずと知れた、周防正行監督の代表作「Shall We ダンス?」をハリウッド映画化した作品。そして、驚くほどきちんと「Shall We ダンス?」だった。話の筋も、設定も、一部変更が加えられてるけどほとんど忠実。故にきちんと面白い。だからこそ、日本版とのニュアンスの比較が楽しい。個人的には女性のキャラづけは、日本版より巧いとおもう(たまこ先生がリアルアル中だし)。あと、スタンリー・トゥッチの見事なまでのドニー青木ぶりは必見。
内容が同じでも、役所広司がリチャード・ギアで、草刈民代がジェニファー・ロペスである。それぞれが忠実に役を演じても、そのニュアンスは変わってくる。ギアはいくら疲れた中年男を演じても、ロマンスグレーの姿が崩れないし、ジェニファー・ロペスがクール・ビューティを演じても、にじみ出るホットさは隠せない。
だから、実は一番この映画で印象的だったのは、J.Loがギアに失礼な事を言ったことを謝罪した後、夜のフロアで踊る場面。弾けるフェロモンが凄すぎる。はっきり言って、下手なベッドシーンよりエロかった。欲情をダンスに置換しているのだ。
周防作品の恋心への奥ゆかしさとその機微をこういう風に表現するんか、とちょっと笑っちゃうほど。
そしてリチャード・ギアである。この映画、じつは、サラリーマンを演じたリチャード・ギアが、見事に「リチャード・ギア自身」になっていく話になっている。だから、映画に出てくる女性はみんなギアに惚れる。そして主人公が人生のパートナーに捧げるのは一本のバラと、タキシードを着た「リチャード・ギア自身」なのだ。
日本版「Shall We ダンス?」はダンスの楽しさが主役だが、このリメイク版はリチャード・ギアにうっとりする映画である。世のおばさま方をうっとりさせるのは必定、と男の俺が思うのだ。笑っちゃうほどリチャード・ギアな「Shall We ダンス?」であった。(★★★)