虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

ぶらり途中「乗車」の旅。

toshi202005-04-03



 「サイドウェイ」を見てきた。巧い。アレクサンダー・ペインの話術はつくづく巧妙だ。


 国語教師のマイルスは、脱稿した小説の出版をめぐり、編集部からの返事を待っている。1週間後に友人のジャックが結婚することもあり、2人は前祝いにワイン旅行へ出かけることに。しかし、ジャックの目的は独身最後にハメをはずすこと。前妻との離婚を引きずるマイルスに、ウェイトレスのマヤを誘うようけしかけ、自分はワイナリーで働くステファニーを口説き落とす。マイルスとマヤも惹かれあっていく。だが…。


 そもそもアレクサンダー・ペイン監督は下り坂を転げ落ちていく駄目男を嬉々として描く作家で、その悪趣味を喜劇にくるんでバランスを取ってきた人だけれども、今回の主人公はちょうど人生のピークを過ぎかけた中年2人で、やがて「挫折」と「絶望」を抱えたままゆったりとした人生の下り坂に落ち込もうとしかけている人間を描いている。その力の抜け具合と、ワインと人生を絡ませる練度の高い脚本が、しっとりとした哀愁を漂わせることに成功している。
 見せかけだけどな!←余計なこと言わない。


 人間の愛しさと愚かしさ。喜劇というのはそれを同時に提出出来る素晴らしい表現だ。その見事な使い手であるペイン監督は素晴らしい監督だが、相変わらずこの人の根性は、最後まで底意地が悪い。ラスト間際での、61年もののワインを使ったあるシーンを見て、「うわー、これぞペイン監督だ」と想った。
 しかし、ラストシーンの、あの観客がどう想うか委ねられるラストを鮮やかに持ってこられて、「くそー、巧いこと落としやがって」と歯がみした。「お後がよろしいようで」って感じだもんなあ。


 腹黒いけど感動的。アレクサンダー・ペインのぺろりと舌を出す姿が目に浮かぶようで、なんか悔しい。だけど、たしかにいい映画だ。……畜生め。(★★★★)