虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「歓喜の歌」

toshi202008-02-02

監督:松岡錠司
脚本:真辺克彦、松岡錠司
原作:立川志の輔



 島流しの吹きだまり。その市の市民会館は、そういう場所だった。
 年も押し迫った12月30日。半年前に受けた予約の確認を受けた飯塚主任(小林薫)は、あることにきづく。大晦日に開催されるママさんコーラスグループのコンサートをダブルブッキングしてしまったことに。なんとか、どちらかにあきらめてもらってなあなあに処理しようとするが、明日のコンサートはどちらも譲れないという。
 一方は20周年の、ゆかりの人々との思い出を込めたコンサート。一方は、練習に練習を重ねてようやく開くことになった初舞台。しかし、それでも飯塚主任はいまいちこの問題に身が入らない。借金問題と奥さんとこじれた関係修復に躍起になっていたからだ。
 ママさんコーラスコンサートは無事開かれるのか。


 ・・・その行方は「餃子」が知っている?



 松岡監督のコメディの演出は、あまり巧いとは言い難いように感じたが、考えてみれば原作が志の輔師匠の新作落語だけに、ちょっと一筋縄ではいかないの感もある。試行錯誤の演出といえるのかも。
 映画向けに作られたものでないから、台詞まわしそのものも「芸」としての見せ場として組み込まれているため、非常にテンポがゆったりとした喜劇となっている。だから、娯楽映画としてはかなり変奏曲な感じである。
 この手のシチュエーションコメディは、ドラマにドラマを重ねて爆発的なカタルシスを持って行く、というタイプが定石だが、この映画のドラマの基点は、「人情咄」なのである。だからその眼目は、「人間(語り手)の情けなさ」が「情のある行い」を見て、ぱたっと裏返ることにある。



 つまり主人公の飯塚主任は常に情けない。この映画の騒動の大本自体が本人のミスにあり、ドジでマヌケで誠意もない、降格させられるわ、借金こさえるわ、離婚寸前だわ、しかも本人無気力で全然反省してないわで、かなり年季の入ったダメ人間である。そんな彼を小林薫が演じるわけだけれども、これが見事。
 彼なくしてこの映画の成功はあり得ないと断言できるほど、その愛すべき「ぼやきキャラ」を体現してみせる。


 その上で、物語が動き出すきっかけになるのは、主任がとったラーメンの注文間違いに対して、その店が出してきた「二皿の餃子」である。
 自分には優しく、他人に厳しい男が、その「餃子」の裏にある、一人の女性の人生に触れたとき、自らが犯した罪の大きさを痛感し、やがて、コンサートのために走り出す。


 それでも、この映画の真のクライマックスは、実はコンサートそのものではない。彼が変わろうとして得た「なにか」である。
 そのささやかな感動こそ、まさによくできた人情咄を聞いた後のような、独特な余韻を、観客に与えてくれるのである。映画の演出自体はせいぜい「二ツ目」が演じている感じで、映画としての完成度は佳作どまりの感じだが、志の輔師匠の演ずるこの作品を是非聞いてみたい、と思わせる、不思議な映画である。(★★★)