虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「寄生獣」

toshi202014-12-01

原作:岩明均
監督:山崎貴
脚本;古沢良太/山崎貴



 山崎貴監督の新作にして、岩明均の代表作「寄生獣」の実写映画化である。



 なんか前評判は良くないし、原作ファンのブーイングも聞こえてきてどうなのか心配しながら見てみたが、一言で言えば悪くない。そんなに嫌いではない。むしろ好きである。意外とエンターテイメント映画として悪くない。




 無論、天才・岩明均の代表作ともいうべき大傑作漫画の映画化としては物足りないという人もいよう。だが原作どおりにやるなら、そもそも2部作じゃ足りないのだ。
 映画史に残るようなマスターピースを目指すタイプではないので、その辺「志が低い」と取られがちだけど、山崎貴って監督は限られた予算の中で自分のやれる範囲というものを十分に知りつつ、その範囲でベストを尽くす非常にクレバーな監督だと思うし、やりたい画を撮るためなら労力をいとわないという意味においては非常にまじめな監督だと思う。もともと特殊効果の技術屋出身だけに、自分にできること出来ないことを知った上で、「メタルギア」シリーズで名をはせるゲーム会社「小島プロダクション」との提携によって顔面変形のモーフィングなどの技術応用を駆使したりと、画を作るためになにをすべきかを、最短距離できちんと見つけ出すことが出来る人だ。だから、特撮技術と映画の融合に関して言えば、日本で有数の確かな人だというのが僕の認識である。



 そしてこの映画の面白さは特撮部分ではなく、むしろ俳優の演技によって引き出されている点も僕のこの映画への好感度を上げている。


 今回、染谷将太を主演に据えたのは個人的には慧眼だと思う。彼の演技は原作の新一のトレースではないのだけれど、彼独自の新一像を消化しているというのはとてもいいことだと思う。彼のいい意味で力の抜けたナチュラルな感性の演技は、この映画を見事に引っ張っている。
 そして、意外や意外?パラサイトであり、新一と同じ高校に転校してくる島田役の東出昌大くんがいい味だ。彼の演技は朝ドラ「ごちそうさん」でも朝ドラファンから「棒」と揶揄されるほどの朴訥とした人柄勝負の演技をする俳優であるのだが、この彼の「棒」っぷりが、本作ではかなり有効活用されていて、俺は大分感心したのだ。島田が正体がバレて口封じのために生徒を殺しにかかるときの、長身イケメンがモンスター化する絶妙に気持ち悪い演技は、「ううわーこりゃキモ怖い!」と心底思ったので、大成功だと思う。


 そしてこの映画における、橋本愛の使い方は満点。可愛いし、ラッキーすけべはあるし、結構怖い目にあってひいひい言わされるし、やっぱり可愛いしで最高だね!これでとりあえず木戸銭分は満足ですよ。



 無論不満はないではない。ミギー演じる阿部サダヲの演技はちょっと陽性な要素が強すぎて、コメディ的場面での「面白いでしょ」感がにじみでてしまってるのはちょっと「ん?」と思わなくはないし、「寄生獣」のキーパーソンの1人田宮良子を演じる深津絵里の演技は型どおりすぎて、いまひとつ。普段の生活では普通に人と接しつつ、ふっとパラサイトの人格がにじみ出るという形に落とし込んだ方が、凄みが倍増したのではないか、と感じる。
 だが、馴れてしまえば、割り切って見ることの出来る要素であるし、ミギーへの違和感もシリアスな要素が強まるにしたがってあまり気にならなくなるのは、それこそ染谷将太演じる新一が次第に「ダークヒーロー」化していくにしたがって、むしろいいバランスになってくるからだと思う。
 

 大幅に主人公の設定に手を入れたり、いろいろな重要な登場人物を削ったりと、古沢良太氏による脚色の、ストーリーの刈り込み方について原作ファンの評判が悪いようだが、俺はこれはこれでいいと思う。寄生獣の根幹はテーマ性という人もいるし、「俺の望んだ実写化と違う」という叫びもわかるんだが、岩明均は元来エンターテイメントの人だというのは最近の歴史漫画路線作品、たとえば「ヒストリエ」「ヘウレーカ」なんかを読めば明白だし、あり得ない「画」のイメージがあってそれをなんの誰もみたことのない「事象」を「絵」で具現化する天才だ。
 私のハンドルネーム「窓の外」は、岩明均の「七夕の国」から拝借してるのだが、そこで描かれる特殊能力もまた「現実にはありえない画」を「現実世界」の中に引き起こすための方便として物語の中に存在する。この映画の脚色がうまいのは、その原作のテーマ性を捨てても、岩明均の中にある明確な「エンターテイメント性」にだけ寄り添い、観客へのわかりやすさに特化した点にある。
 この物語がどういう帰結に至るのか、その脚色への評価は春に公開される「完結編」を待つしかないであろう。


 というわけで、とりあえず僕は楽しんで見られたし、素直に「完結編」楽しみだなあと思ったので、個人的には良かったと思う。原作に触れたことのない人にとってはむしろこの映画はいい入り口になるのではないか、と思うので、そういう方にこそオススメできるし、興味を持ったら是非原作にも手を取っていただけばいいんじゃないでしょうか!俺は、大好き。です。(★★★★)

新装版 寄生獣(1) (KCデラックス)

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七夕の国 1 (小学館文庫 いK 1)

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