虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「滝を見にいく」

toshi202014-11-23

監督・脚本:沖田修一


「三万払って来てみれば周りおばちゃんばっかりじゃない!」


 「南極料理人」「横道世之介」の沖田修一監督の新作である。
 温泉付き紅葉狩りバスツアーで知り合ったおばちゃんたち7名がツアーガイドが頼りないせいで、結果なんでもない山で遭難するという話。


 東京国際映画祭でチケットが取れて初見した作品。


 映画祭での上映時、映画を見る前にキャストの人の舞台挨拶があったんだけれども。観客としてこれほどありがたみのない舞台挨拶は初めてだった。
 だって全員、無名のおばちゃんたちをキャスティングした映画なんだもの。誰も知らないおばちゃんたちが映画についてコメントし、観客にあいさつするというやりとりをただ見ているという、非常にリアクションのとりづらい舞台挨拶の後、映画を見ることになったわけである。


 で。


 面白かった。びっくりした。
 初めはね、やっぱり知らないおばちゃんたちがバスに乗って会話したり、山でそれぞれが思い思いに好き勝手に動き回るのを撮っていて、もちろんそれには台本も演出もあるんだろうけど、やっぱりどこかぎこちない感じがあるのよね。沖田監督の四苦八苦しながら撮っているんだろうなあ、という感じがある。最初は、ちょっと「撮影中の緊張感」的なものが画面からにじみ出てくるんだけど。
 そこからおばちゃんたちのアンサンブルが始まる。


 ツアーガイドのおじさんが目的地である「幻の滝」への道を見失って、おばちゃんたちを残して滝を探しに出かけてしまい、おばちゃんたちは残される。だが、ガイドはなかなか戻ってこない。なにかあったのでは、ということでおばちゃんたちは二手に分かれて、ガイドのおじさんを探す。だが、合図を頼りに合流すると1人が腰痛を患ってしまっていて、仕方なくおばさんたちは下山しようということになる。だが、しばらくしておばちゃんたちは気づく。
 自分たちもまた、遭難しているということに。
 次第に夜になりあたりは暗くなってきたことで、おばちゃんたちはそこにとどまり、夜を明かしつつ、助けを待つことにするのであった。



 その頃にはおばちゃんたちの個性も少しずつ固まってくる。年の差写真仲間で80近い元教師である「師匠」(得納敬子)と、早い出産で40代半ばで子供が独立し第2の人生を生きるバツイチの「スミス」(渡辺道子)、パートで知り合った友人同士の元国体4位の「クワマン」(桐原光恵)とオペラ経験のある「クミ」(川田久美子)、男運が悪くつらい恋愛経験からツアーに参加、「40過ぎたら女は同じ年齢!」という名言を残すアラフォー独身美容師「ユーミン」(安沢千草)、娘からのプレゼントでツアーに参加した60代主婦「ジュンジュン」(根岸遙子)、最近長い闘病生活の末夫をガンで亡くした「セッキー」(萩野百合子)など。
 年代も個性も人生もバラバラの7人。共通するのはそれぞれが元「女の子」であったということ。山で夜明かしすると決めたことで、腹をくくった7人は、少しずつ山での生活を楽しみ始める。


 生活に疲れ、人生に疲れ、将来に不安を抱え、それでもやっとこさっとこ生きてきた40越えたおばちゃんたちが、ちょっとした非日常に迷い込むことで、少しずつ本来彼女たちの中にある「女子」の部分がめざめてゆく。
 沖田監督は彼女たちとの一対一で彼女たちの人生を聴き、その上でキャラクターを固めていったという。オペラを歌えるもの、腰痛になっちゃうもの、そのへんに落ちてた枝で杖が作れちゃうくらい手先が器用なもの、女子が嫌いな蛇が平気で触れるものなど、様々な個性を抱えながら、山で縄跳びしたり、拾ってきた食材と手持ちの道具で料理を完成させたり、80歳近い師匠の、昔のロマンスを肴に女子トークしたりと忙しい。7人寄ればかしましい「女の子」に戻っていくという様は、見ていて大変微笑ましくも楽しい気分になってくる。


 そして彼女たちは助けが来ないと悟ると、今度は自力で下山を始めるわけであるが、その頃には連帯感もハンパなく、そして彼女たちは「幻の滝」を目指して山をのぼっていくのである。いつまで「女子」でいるつもりだ?いつまでもだ!という、おばちゃんたちの「女子力」復活ムービーである。


 そして見終わった後、思うわけである。「おばちゃんたちの舞台挨拶を映画の後に見たかった!!!」と。「おわー!本物のユーミーン!・・・あ、師匠!!」と感激したろうになあ。と。いやー。楽しかった。大好き。(★★★★☆)