「謝罪の王様」
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虚馬ダイアリー「舞妓Haaaan!!!」感想
http://d.hatena.ne.jp/toshi20/20070616#p1
阿部サダヲが初主演を努め、クドカンこと宮藤官九郎が脚本を書いた「舞妓Haaaan!!!」が公開されたのが2007年のことである。
俺は思いましたよ。阿部サダヲの主演作はこれが最初で最後なのではなかろうか、と。チョー面白かったけど。
あれから6年くらいの月日が経った今。
気がつけば。阿部サダヲは大河ドラマから人間ドラマ、子役と戯れる役まで幅広い役柄で引っ張りだこの人気役者となり、一方クドカンは「じぇじぇじぇ」な朝ドラで大成功を収める。
そんな未来を想像出来た人は少ないに違いない。もちろん、わたくしも、である。
しかし、である。初主演作で組んだクドカン脚本×阿部サダヲ主演×水田伸生監督タッグの映画も3作目。彼らが組めば、阿部サダヲも一流の変人に逆戻りするに違いない!
そう思った私が見に行って一番びっくりしたこと。
この映画で一番常識あるのが阿部サダヲ。
いやまテンションだけは無駄に高いのだが、基本彼は彼の仕事を全うしてるだけのプロフェッショナルであり、それ故のテンション高さであると言う。
彼の演じる男・黒島譲。職業は、「謝罪師」という。一言で言えば「どんなトラブルも謝って済ませてあげる人」である。
この映画は謝る、という事と同時に如何に「許し/許されるか」という物語である。
「謝罪」を要求されて憤る人は多い。「謝罪」という行為を極端に恐れ、または「謝罪」の流儀に対して無知であるがゆえに、タイミングを逃したが故に、こじれるケースも少なくない。
この映画における「謝罪」のテーゼとはなにか。というと。如何にして「許して」もらうかにかかっている。
車に接触して出てきた相手がヤクザだった、酔った席で女性のパートナーにセクハラ行為をしてしまった、大物芸能人の息子が一般人を殴って逮捕、果ては国際問題で「謝罪を要求」される事態まで、この映画ではオムニバス形式で描かれていく。
身近な問題、「ヤクザとのトラブル」、「セクハラ問題」、「芸能人の謝罪会見」などを描く序盤は快調である。
特に、岡田将生と尾野真千子のセクハラ問題篇は最高である。
岡田将生演じる、軽すぎて馴れ馴れしいがゆえに謝り下手な青年・沼田と、優秀でお堅く真面目で潔癖だけど振り上げた拳の落としどころに迷う女性社員・宇部との、やりとりはすごい。黒島のアドバイスをことごとく裏目にしてしまう沼田の馬鹿っぷり、宇部とのこじれにこじれた関係を一気に修復する黒島の豪腕の荒唐無稽さを含めて、ゲラゲラ笑って見ていた。
なにより尾野真千子のリアクション演技が可愛くて可愛くて。この映画のヒロインは井上真央演じる黒島の助手なんですけど、ヒロインの座を脅かすほどの可愛さで、たまらんかったです。眉間の皺さえ愛おしい感じ。(そこまでか。)
そして、このエピソードでテーマとしては出し尽くしちゃってもいる。つまり、「謝罪を要求する」と言ってくる相手というものは「相手を許したい」と思っている相手でもある、ということである。謝罪とは「許し」を引き出す行為である。と。
映画はこのあと、芸能人の謝罪、果ては映画作りをきっかけとした国際問題に発展するエピソードなど、問題はより大きく、そして深刻になっていくのだが、物語の「テーマ」は同じである。「如何にして相手の許しを引き出すか」の話である。
それらの話は決して面白くないわけではない。むしろ、個々のエピソードのレベルは相当高く、得意の小ネタを随所に挟み込み、時系列をシャッフルしながら巧みに伏線を配置し、有機的に個々のエピソードを繋ぎながら、それらを回収する手際もいい。
だが、それでも、シンプルに「謝罪」について描いた序盤の方の面白さが圧倒的すぎて、後半、どうしても失速してるように見えるのが惜しい。問題は大きくなっていく分、それを解決するためにテクニックで描こうとしている感じがするのである。
とはいえである。とりあえず「あまちゃん」ですっかり国民的脚本家みたいな扱いになりつつあるクドカンの本来の味が楽しめる作品であることには違いなく、馬ッ鹿馬鹿しくてくだらないオチも個人的には好き。(最後のミュージックビデオは個人的に蛇足。)
とりあえず「クドカンってこういう味の人だった」と思い出すには絶好の映画であると思います。大好き。(★★★☆)