「クラウド アトラス」
原題:Cloud Atlas
監督・脚本:ラナ・ウォシャウスキー/トム・ティクヴァ/アンディ・ウォシャウスキー
原作:デイヴィッド・ミッチェル
6つの時代の物語を軸に、物語を混在させながら描く大河ロマン大作。
世代を超えた別々の物語を同時進行で進めながら、豪華キャストがいろんな役柄で顔を出す、手塚治虫作品における<スター・システム>のようなことをやっている。物語が自在に飛びながらも、物語はどこかでつながり合いながら、それぞれの結末へ向かって突き進む。
主な出演者
<トム・ハンクス>
「ノルーシャの渡しとその後のすべて」(時代設定:西暦2321年)の主人公・ザックリーを演じる。
他の物語でも多様なキャラを演じているが、何を演じてもトム・ハンクス。だからいい。善と悪の狭間に揺れる役柄が多い。手塚キャラで言えば猿田の役回り。
<ジム・ブロードベント>
「ティモシー・キャヴェンデッシュのおぞましい試練」(時代設定:西暦2012年)の主人公ティモシーを演じる。
気はいいけれど欲深い爺さん役もこなせるオールラウンド爺さん俳優。手塚キャラで言えばヒゲオヤジの役回り。
<ヒューゴ・ウィーヴィング>
すべての物語に登場する。
主に癖の多い悪役や主人公と敵対する保守的な人物を演じる。手塚キャラならアセチレン・ランプの役回り。
<ヒュー・グラント>
脇を固めることに徹し、どんな役でもこなす。手塚作品のレッド公に近い役回り。
<ハル・ベリー>
「半減記 ルイサ・レイ最初の事件」(時代設定:西暦1973年)の主人公ルイサを演じる。
他の物語でも美人役を張ることが多い。主な役回りはミッチィに近いか。
<ペ・ドゥナ>
「ソンミ451のオリゾン」(時代設定:西暦2144年)の主人公・ソンミ451を演じる。
手塚キャラで言えば、個人的にはメルモ(大人版)。
<ジム・スタージェス>
「アダム・ユーイングの太平洋航海記」(時代設定:西暦1849年)の主人公・アダムを演じる。
手塚作品なら善玉スター時代のロック・ホームや、ケン一に近い。
(C)手塚プロダクション
などと、キャストと手塚治虫キャラと関連づけてもキリがないわけだけど。
6つの物語の主人公は時代も場所も性別も人種もバラバラ。だけど、彼らは「ほうき星」のアザを持ち、彼らの物語はどこかでつながっている。
「セデルゲムからの手紙」でベン・ウィショー演じる作曲家志望の青年・ロバート・フロビシャーが、彼が師事するヴィヴィアン・エアース(ジム・ブロードベント)とともに作り上げる、この映画の背骨となる曲「クラウド アトラス六重奏」が象徴するように、この物語は同時並行に物語が語られ、やがて、出会いや運命の中で人生はつながっていくものであり、時代を超えてもなお、人は同じ過ちを繰り返すものだという、真実を描きあげる。その編集は見事。
手塚治虫の「火の鳥」では、不死の存在・火の鳥を通じて人の愚かさや哀しみの物語を繰り返し描いていくのだが、先ほど書いたように、本作では一定のキャストを全く別の役柄で配置することで、そこにイメージの関連をつけている。特に、トム・ハンクスとヒューゴ・ヴィーヴィングの存在感は、個々の物語の中でも関連をイメージさせる「記号」として、見事な役割を果たしていて、ひとつの作品へとまとめる橋渡しとなっている。
それぞれの物語の中に結ばれぬ愛を描いていたりするが、未来のイメージが過去の場面につながったり、過去の出会いが未来の出会いとの対比となったり、逆に未来の悲恋が過去の再会へとつながるなど、キャスティングによって縦横無尽にエピソードがつながるので、そういう関連を見つけるのも面白い映画になってます。大好きです。(★★★★)
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/03/14
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