虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「笑う超人」

toshi202007-11-28

出演:立川談志
演出:太田光


 ずっと積んであったんですが、ようやく見ました。いやあ・・・これは良かったですよ。
 最近やたら仲の良い立川談志太田光ですが、立川談志の死体にまつわる噺「黄金餅」「らくだ」を、カメラ7台で撮って編集する、コラボレーションDVD。特典映像に「鼠穴」がついてくるってんで、1枚で名人の話が三席聞ける、というだけでまあ、大満足ですが。
 おそらく賛否分かれるのは、真っ白な背景で、客も入れず、枕もなく、いきなり噺に入るそのスタイル。ということになるでしょうか。


 すげえな、と思うのは。やっぱり家元の「芸能」というかみずからの「芸」を、他人の手にに委ねる、その度量ですかね。落語というのは客席に向けてやるものだし、固定カメラで撮っても、いやむしろその方が、「芸」の部分が生きてくるし、落語という芸が生み出す空気感を捉えられるのは承知の上で、あえて相手のまな板に裸で身をさらす、その潔さ。さすが、いつも「死ぬ死ぬ」言ってるだけのことはありますな。
 一瞬一瞬にすら、手を抜かない。とくに「らくだ」は、やっぱり、やっぱりすごい。特に雨宿りのくだりね。あの手前で家元のアップが映る。そこにつーっと汗が流れて、それをすっとぬぐう。そっから、雨宿りの思い出話に入る。ここはちょっと鳥肌もんで、「すげえっ」と思った。そのエピソードが、嫌われもんの「らくだ」の哀しい一面を映し出す場面なんだけど、それを結局「だけど嫌な奴」という風に、あっさり打ち消す。「ああああ」と思いましたね。すげえな師匠は。この一瞬を撮っただけでもこのDVDの価値はある。


 このDVDで太田光が撮りたかったのは、おそらく、おそらくだけど、「こういう生き物がいた」ということを、映像で残しておきたかった、ということじゃないかと思う。落語が撮りたい、というのとは違う。立川談志をどう撮れば、他の噺家とは違う、「老いてなお面白い生き物」が死にまつわる噺を演じる面白さがでるか、と苦心惨憺した結果ではないか。そこにおそらく、「生きている」立川談志という落語家の「生身」が映る。
 今、見ておくべき落語であり、映像、ということでしょうかね。必見。見ねえなら、死体にかんかんのうを踊らせろい。