虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「デスノート」後編

toshi202006-11-03

原題:「デスノート/the Last name」
監督・共同脚色:金子修介 脚色:大石哲也 原作:大場つぐみ/小畑健
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/deathnote/



 はじめに。
  あえて「後編」と書かせていただく。「前編」の感想と合わせてお読みいただきたい。


虚馬ダイアリー:「デスノート」前編感想
id:toshi20:20060618#p1

 

 俺の前編の感想で、原作への解釈とそのアレンジへの評価は先に書いた。その上で後編に期待したことは、原作の良いところを引き継ぎつつ、どのように原作を「改変」していくか、ということだ。
 「前編」において作り手は、もうひとつの「デスノート」を紡ぎ出すことを、意志として示した。
 原作原理主義というものにおれは一切の興味がない。「物語る」ということとは「写経」ではない。ベクトルとしては「逆」である。忠実な映像化が見たければ、現在放映中のテレビアニメ版を見ればよい。少なくとも作り手はそういうものを作る気はない。「物語至上主義」を標榜する私にとっては、その態度は実に好ましい。


 で、満を持しての後編である。期待と不安をともに見た。


 うむ。


 俺の期待した「デスノート」後編がそこにあった。映画版を一言でいえば、「あなたのみたい「デスノ」を見せまSHOW」だ。


 以下、映画、および原作(アニメ版)のネタバレを含みます。知りたくない方は要注意










 原作が最も面白いのは、第1部である。秀才・月とデスノートとの出会い、特殊探偵・L=竜崎との邂逅、第2のキラ・ミサの登場、警察を巻き込んだLと月の壮絶な駆け引き、そしてLとの決着までを描いた。
 作り手は、後編において、迷走していく第2部をばっさり切ったうえで、第2部の「第3のキラ」(魅上照)エピソードや、テレビプロデューサーの出目川、「清楚」高田などの脇キャラクターをアレンジして援用しつつ、あくまでも「月VS竜崎」の対決を、物語の基本線としていく。


 正しい。正しすぎる。この決断で7割方、勝ったも同然。誰に?俺に。


 南空ナオミのアレンジも好きなのだが、高田清美は学生からテレビ記者へと大胆にキャラアレンジを行っていて唸った。良心的な記者だった高田が、まるで「デスノート」が「呪い」となっているかのように、自らの欲望のために人を殺していくという流れは、原作の魅上の機械的なキラ信者っぷりよりも、数段深みがある。


 さらに、Lが最後の一手(これが副題「LAST NAME」)を決める時に見せる「覚悟」!これがね。いい。熱い。第二部最大のギャグ「ジェバンニが一晩でやってくれました」による決着よりも、はるかに胸に落ちる結末と言える。


 そしてもうひとつ。後編は原作で消化不良だったものを補完していく。
 この映画において、「キラ」と向き合う男がもうひとり登場する。夜神総一郎だ。


 俺は原作を読んでいたとき、夜神父こと総一郎が月がキラと知らぬまま死んでいくという展開には、正直がっかりした口で、息子を信じながらも刑事として「キラ」を憎む総一郎が、その事実を知ったときどう受け止めるだろう、という期待を見事にスカされてしまった不満があった。映画版ではその父親が、「キラ」と正面から対決することになる。
 これが描きたかったがゆえの、物語のアレンジと知った俺は嬉しかったですね。デスノートの「魔力」に魅入られた秀才*1と、その息子の正体を知ってなお息子を抱き留める父親。この構図によって、月は「計算通り」装置ではない、哀れで愚かな一人の人間としての側面を浮かび上がらせる流れ。



 そうだよ。俺はこれが見たかったんだよ、と。ここで「ゲーム」のような「死のノート」についての物語に血肉が通ったように思った。



 無論不満がないわけではない。主にミサミサとかミサミサとかミサミサが<ミサミサだけかい。
 いや、戸田恵梨香、可愛いっちゃ可愛いんだけどさ。ミサミサが関わった場面は、全部うそくさく見えるので困った。どうも、美少女に甘い金子監督の特性が悪い方向に流れたようには見えた。特に序盤のテレビ局のくだりの演出のダサさは、俺に映画の先行きを心配させるには十分だった(笑)。あと、決着から1ヶ月後のシーンも蛇足と思った。
 かように、決して完璧な傑作ではないが、「デスノート」の映画化としての成果としては、★★★★★を差し上げたい気持ちだ。


 自身の手によるもうひとつの「デスノート」を描くことで、映画化する原作と向き合い、返答とした作り手に、敬意を表す次第である。


 「デスノート」は幸せな漫画である。(★★★★)

*1:それを描くのが作り手の目的だと、前編感想で指摘してたりする。ふふ・・・計算通り(嘘)。