虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

今週のプラネテス-ΠΛΑΝΗΤΕΣ- PHASE.16「イグニッション」

http://www.planet-es.net/
http://www3.nhk.or.jp/anime/planetes/


amazon.co.jp:「プラネテス」関連商品



●あらすじ(公式ページより)
デブリ回収中の事故で、ハチマキは単独で宇宙に放り出されてしまう。なんとか無事に戻りメディカルチェックを受けることになるハチマキ。最初はピンピンしていたのだが、最後のチェックで感覚遮断室に入ると様子が一変、パニックを起こしてしまう。宇宙飛行士には致命的な病気、空間喪失症だ。リハビリのため何度も感覚遮断室に入るハチマキだったが…


●メモ

・原作エピソード

プラネテス(1) (モーニング KC)プラネテス (1)」PHASE.5「IGNITION――点火――」より。


 真の「ターニング・ポイント」、来る。


「だれもいないのか!?だれでもいいッ!!俺を見つけくれ!」


 真空。もがけど叫べど、何の反応もない空間。
 音も光もない。誰もいない。何もない。その冷厳な事実。

 宇宙のあこがれ続けてきたハチマキが初めて出会う、宇宙の恐怖。


「今年は11年に一度の太陽活動期だ。」

 
 太陽活動期=太陽活動の極大期。前回の極大期が2000年なので、次回は2011年…の予定。



「あのフレアは誰にも予測できなかったし、フォローも出来なかったよ」

 
 フレア=太陽面爆発。電子と陽子で構成された太陽風が突発的に増大し、電波障害が起こる。と同時に、放射線が増大し、毎秒500シーベルト放射線が降り注ぐ。(人間の放射線による致死量は8-10シーベルトと言う)。
 ただ、現代でも十分に予測可能な現象らしいので、「あの」フィーが落ち込んでいるのは、ベテランである彼女の宇宙人生、最大の不覚だからと思われる。


「作業中のクルーをロストしたのは私の責任だ。通信途絶はプラズマ流の天象予報から予測すべきだった……」


 プラズマ流天象予報=太陽面活動の予報。太陽面爆発による太陽風の到達は数時間〜1-2日かかるので、太陽面爆発が起こるたびに、そこからある程度予測をつけていく。2070年代ならばかなり正確な予報も出来ているかもしれない。
 
 事故の描写が詳しく描かれないのでなんとも言えないが、問題はハチマキの行方を見失ったのと、フレアによる電波障害が同時に起こったことのよう。視認できなくとも、通信さえ生きていれば、ハチマキの位置は確認できたから問題なかったはずだが、それが重なったことは不幸だった。


放射線の一番ヤバい時、ヴァン・アレン帯の隙間に入ってたみたいでさ。それにほら、地球の影に入ってたじゃん?俺ら。」

 ヴァン・アレン帯については公式の用語解説にて。
http://www.planet-es.net/TECHNORA/debri/yougo001.html

 決してバレンタインとは関係ない。…すいません、書いてみたかっただけです。


 ヴァン・アレン帯の隙間=内帯と外帯の間。放射線帯と放射線帯の間に囲まれているので、相殺されるってこと…なのかな?


「感覚遮断室なんて恐そうな名前ですけど、なんのことはありません。ただの空っぽの部屋です。一点を除いてね。」

 音と光を一切断つ昔ながらの宇宙空間適応訓練(原作より)。原作では「感覚剥奪室」。


「船外作業員にはまれにある症状でしてね。音信不通の宇宙にたった独りで漂っていたんでしょう?その時の恐怖を体が覚えているんです。」

空間喪失症。血圧上昇、過呼吸、パニック症状、方向感覚の喪失。ひどいと幻覚や幻聴もおこる。」


 空間喪失症自体は造語のようなので、「何にでも病名つけやがって」というハチマキのツッコミもある意味正しいのでしょうが、それは置いといて。

 ここからは想像ですが。
 この病は、言ってみれば不安神経症パニック障害)に近いのではないか。どちらかというと、外向的な人間が起こしやすいという点も共通してそうだ。


「いや、ハチマキはEVAスペシャリストだが、空間喪失症となればライセンスは取り上げだ。」「取り上げって」「…二度と宇宙には出られない。それを恐れていないはずはないさ。

 空間喪失症=ミッションスペシャリスト不適格、という公式がハチマキの中でストレスになり、それが症状を悪化させていくのだとしたら、病院にいるのは悪循環なのかもしれない。オプティミスト(楽観主義者)ゆえに、ストレスが意識にのぼらないのも問題か。
 感覚遮断室に続けて入ることが正しい治療なのか、今の時点ではよく分からない。


「心配ですか」「それは…同僚ですから。」


 前回がきっかけか、個人的に会い始めるクレアとハキム。ハチマキのことで相談するほど、この時点でハキムはクレアの信頼を勝ち得ている。


「すいませんハチマキにこれを。」
「みんながかき集めたものですが、あいつも顔を会わせづらいでしょうし。お願い出来ますか。」


 外向的だったがゆえに、愛されてきたハチマキ。だが、その性格が逆にハチマキを苦しめている。




「感じたんだろう。放射線の嵐を漂いながら、くだばるかもしれないって。でも救われる気分だった。」

 不安=対象化されない恐怖。ハチマキが徐々に内向することで現れた、もう一人のハチマキ。目を逸らして、無意識に押し込めてきた恐怖の対象を、ひとつひとつ指摘していく。


「それでも吠え続けたのは、いつまでも夢の途中でいたかったからさ。な?」
「大きすぎる夢は身を滅ぼすぞ。わかっているだろう、お前には。…そう、見てきた。見てきたはずだ。その最後まで。」


 宇宙は酷薄である。その事実を積み重ねてきた。その残酷な結果を含めて。


「タナベ!」
「可愛いじゃないか。彼女。悪くない。そう、悪くないよな。こういうのも。地球に降りて、結婚して、歳喰って。」「黙れ!」「夜空の輝きを見上げながら、『あの病気さえなければ今頃俺は…』そう言える権利をお前は欲したんだ。」


 ここまでタナベと積み上げてきた関係。それすらも冷淡に見つめる自分がいる。ハチマキに隠されていた、今の現状に幻滅し、見下す自分。


「いいじゃないか、これで。」
「認めろ。受け入れて、楽になって、嘘を詫びるんだ。」


「宇宙はお前を愛してはくれないが、許してはくれる。」


 あまりにも絶望的な宣告に、激高して抗うハチマキ。





「俺は医者じゃないが…いい薬がある。一度ためしてみろ。あいつが本物なら下手なリハビリより効くはずだ。だがもし、それで駄目なようなら、仕方がない。俺が直接引導を渡そう。あいつには地球に降りてもらう。」

 だが、そんな心の悪循環から救うのは、ギガルト先生が言う「薬」。



「タンデムミラー式核融合エンジン。世界最強のエンジンよ。」

 それは、現実を越えていくための、憧れの翼。






「考えたんだ、俺。
  あのエンジンを作ったエンジニアたちもあんたみたいのとケンカしてきたのかなって。


  何も見えない暗闇の中で手探りで道を探して。きっとみんな、そういう想いをしてきたはずなんだ。


  ツィオルコフスキーも、
  ゴダードも、
  オーベルトも、
  フォン・ブラウンも。


  でもあんたとのケンカを一生賭けてするって腹を決めれば、いつか光はさすんだ。
 
 

●雑感

 出来の良いエピソードをアニメ化するアドバンテージすら逆転させた傑作エピソード。


 ハチマキが宇宙の恐怖と出会うことで、向き合う、自らの現実。そこから飛翔するための夢。
 しかし、その夢へと向かう途上にあるのは今まで見てきたものとは違う、過酷な風景。


 この話で、回想として昔のエピソードの1シーン1シーンを挿入しながら、大局のストーリーの転換点として機能させる離れ業。見事に原作を質的に越えていく。このエピソードで、このシリーズの出来は決まったと言って良いとすら思う。