虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「魍魎の匣」

toshi202008-01-14

監督・脚本:原田眞人
原作:京極夏彦


 「ほう」でおなじみ、京極堂シリーズ最高傑作と名高い「匣」の映画化。原作は5,6年前に一回読破したっきり。めちゃめちゃ面白かった記憶は濃厚にあるけど、細かいところは大分忘れてる。
 てなわけで、公開前はそれなりに期待していたんだけど、公開日前後あたりでなんか方々で酷評を聞いていたため、なんとなく後回しにしていてすっかり忘れていて、後日、がさごそと前売り券を整理していたら、本作の券を発見し、「そういや、前売り券買ってたんだっけ」と、重い腰を上げてようやく鑑賞。


 そんなテンションで見始めたんだけど・・・膨大な台詞量を処理するためとは言え、台詞に感情がこもらない早口で役者が会話するという演出も、その手の演出は大林監督で大分免疫がついているためか、「あれ?・・・わりと面白い?」と疑問符つきながら、結構楽しく見始めていたりして。
 なんか世界観は、「ラストサムライ」の現場を見てきた監督が「そっか、日本映画だからって日本でロケハンする必要ねーよな」と故・実相寺監督が生み出した前作の世界観をいきなりリセットして、上海の建物や町並み、東京の地下にある貯水池をそのまま流用して、エキストラも現地で賄って、予算の割には見栄えはいい、という荒技。それが京極先生の世界観と見事なまでの鬼はずれだったりするのだけれど。
 だけど、もうどんなひどい代物がでてくるかと思ったら、それなりに見栄えはしてパキパキと物語が進むので、小気味はいい。つーか、京極堂って、現実ではこんなテンションでしゃべってそう、という感じがしないでもない。


 ただ怪奇性みたいなものは希薄で、京極堂もなんか「おがみ屋」というよりは「有閑古書店主」のにおいの方が濃厚で、前作ではそれなりに漂わせたカリスマ性はかなり後退している。彼の見せ場のひとつである「憑き物落とし」の場面も、有閑インテリの余技に見えてしまう。そうなると、もうキャラ的には阿部寛演じる榎木津のキャラの方が断然濃いので、なんか「不条理ギャグのない『トリック』」みたいなことになっているのは、ちょっとどうなのかな?と思いました。
 あと、関口役が変わっている*1ことに、彼の登場してからしばらく気づかないで、数分してから「あ、この椎名桔平・・・関口なの?」ということに気づいたりしたんだけど。・・・なんか椎名桔平、健康的すぎて関口に見えないよ。ちょっと鬱病の気がある人で、彼の目線から見ているからこそ、「憑き物落とし」という世界観は有効なのでね。
 あと、最後の「ほう」はちょっといただけない。あの匣はねえよなあ。ここだけは原作どおりにして欲しかったなあ。


 ・・・と文句をつけては見たものの、個人的な思いとしては「意外と面白いじゃん」であり、口を極めて罵ろうという気は起きなかったなあ。楽しめてしまった。もともと映像化としてはかなりの難物であることは確かだったし。それを覚悟して見さえすれば、がんばったと言えるのでは。佳作というにも足らない映画であり、どちらかというと珍作だとは思うけど、駄作と断ずるには惜しい作品と思いました。。(★★★)


追記:ああ、あと敦子ちゃん役の田中麗奈はすっごい可愛かった。その点だけは、前作より良いかも。それだけでも見る価値はあるかもだ。

*1:永瀬正敏急病による降板のため