「ヴィンランド・サガ」1巻 感想その1
●メモ
第1話「北人(ノルマンニ)」
・11世紀 フランク王国領
11世紀には西フランク王国は消滅して、987年にカペー朝が成立している。おそらく攻め手側がフランク族の残党、という意味なのではなかろうかと思ったが…首領のジャバザが「将軍」「閣下」って言われてるしなあ。ま、いいか。
・「バカな連中だ、あの砦に正面からぶつかりやがる」
砦の攻め手がフランク族の「王国」側で、守り手がフランク族の「土豪」。裏が湖で、砦へと繋がる道は一本しかないため、一本道にて突撃を繰り返せば…まあ、死人の山は自明。
<初登場キャラ>
トルフィン(戦士・トールズの子。現在アシェラッド兵団に所属。アシェラッドを仇として彼との決闘を望んでいる。)
アシェラッド(アシェラッド兵団の頭。トルフィンの父、トールズを殺害した過去あり。)
・「ほうびを約束しろ」「…交渉成立なら金貨3枚くれてやろう。ティール神に誓ってね」「ざけんなそんなもん要るか。わかっているだろうアシェラッド。」(中略)「だがボウヤ…それならカブト首のひとつくらい奪ってこなきゃならんだろうぜ。」
アシェラッドは王国側との交渉に、少年・トルフィンを軍使に立てる。その報酬、その条件。これが、後の戦況に影響を与える。
・「劣勢の兵は気が立ってる。交渉の卓につく前に軍使が殺されるなんてことはよくあることだ。」
交渉を任せたことをいぶかる部下へのアシェラッドの答え。まあ、これは本音の一部でもあろうが、トルフィンを試しているという部分もあるだろう。
・北の民(ノルマンニ)
ノルマンニは主に「ノルウェー」地方のヴァイキングのことを指す。アシェラッドはデンマークを本拠地としているから「デーン人」だが、トルフィンはノルウェーからアイスランドに入植したノルマンニの家系である。
・「しかし閣下、戦利品半分というのはあまりにも…」
「半分?はて?なんのことかのう きゃつらは北方から来た野蛮人どもだ。異教徒相手に不義を成したとて主はお目こぼしくださる」
味方によって戦利品の半分をよこせというアシェラッドの口上を伝えるトルフィンに対して、味方にしておくためにその場限りの嘘で味方に引き入れるジャバザ(元ネタは「スター・ウォーズ」のあれであろう)。
・「おそらくは……そうだな。別働隊に連絡……と言うところか。気をつけろ。明日はなにかが違うぞ。」
名前が結局出てこなかった「土豪」の守備隊長。「王国」の方とは違い、なかなかの人物のよう。
・「西側にもハシゴをかけろ。犠牲を厭うな。」
一方、翌朝のジャバザ将軍、相変わらずの突撃。交渉事以外には凄まじく無能。
・「山っ……山から船が来たぞォ!!」「おのれ…………かついで峠越えをするとは……」
これぞ奇策。それを可能にする、鍛え抜かれた男達。これがヴァイキング。それを従える男・アシェラッド。
・「うろたえるなァッ!!たかが3隻だ!!右翼の80人船着き場へ行け。上陸させるな!!残りは門を死守せよ!!」
一方「土豪」側も負けてはいない。守備隊長(姓名不明)は確実に、反撃に最良の手を打つ。
・「弩か。数が揃っているな。多少の損害が出るか。」
思わぬ敵の反撃。味方の混乱の中で冷静にそして冷徹に、戦況を見極めるアシェラッド。
・「おのれ!!」
だが、有能な隊長の前に現れたるは、トルフィン。眼前の敵をなんなく殺し、隊長の首を見事はねる。
・「ふむ。力のない抵抗だなやっぱり。」
・「あーあー大勢さんで来ちまって。門の方は大丈夫なのかねコイツら。」
有能な主を失った隊は混乱。戦況を把握する能力すらない。この時点で勝負は決す。
・「戦利品の半分として貴殿は勝利を。我らは財宝を。」
かくして、略奪と殺戮(や××…する暇はさすがにないか)の場と化した砦。
フランク軍が砦に入った頃には、敵はとうに壊滅し、財宝は奪われた後であったと。北の民の海賊行為が始まって三百年だけに、手際もスムーズってわけか。
第2話「ここではないどこか」
アシェラッドの本拠地。
・「ゴルムの叔父貴よ ここの女達は慎みってもんがなくて実にいいな!」
実際冬から春にかけて、仕事もせんと居座る海賊ども(普通の海賊は働くんだが)の相手を誰がするかっていったら…ねえ?慎みなくなるのも当然っちゃ当然って気もする。
<初登場キャラ>
ホルザランド(本名不明。ゴルムに買われた奴隷階級の少女。ホルザランドあたりの領主の血筋ということでこの命名。)
・「役に立たないのは奴隷のせいじゃないぜ。あんたの使い方がヘタなんだよ。どんな奴でも上手に使うコツがあるもんさ。」
ゴルムのホルザへの愚痴に対するアシェラッドの台詞。この台詞はトルフィンを使いこなしてきた経験から出ている。
・「なお決闘の理由は----トルフィンによる彼の父親の仇討ちである。」(中略)「……?どうして親の仇の手下になってンの?」「?さあ……」
いいところに気付いたな姉ちゃん。俺も知りたい。
・トルフィンの剣技、アシェラッドの体術。
この描写を見る限り、技術面ではトルフィンの剣技はかなり研ぎ澄まされていると言っていい。だが、アシェラッドには剣技の技術だけではなく、合気道のような体術と海賊としての経験がある。その体術の恐ろしさを、手を合わせた瞬間に感じて、距離を取るトルフィン。
・「いやでもさァ実際こうやって仇討ち〜〜〜なんてやってる最中に申し訳ないが、ほらいっぱい殺してるからさ思い出せないんだよ君の父上のこと。」
・「貴様…貴様は…あの時…オレを人質に…」「あーハイハイ思い出したァ。ガキの命と引きかえに剣を捨てたあのバカだァ」
彼の剣技を見抜き、なるべくなら生かして使った方が得策と考えているアシェラッドは、彼を巧みに挑発し、慎重になっているトルフィンの精神を乱しにかかる。
・「アツくなっちゃダメェ〜〜〜修行が足りないぜボウヤ。」
結果トルフィンは彼の体術の網に掛かり、肩を外され勝負あり。
・「正々堂々と一騎討ちで勝たないとイヤなのさトルフィンは。プライドと過去が奴を縛る。」
・「自覚がないだけなのさ。人間はみんな、何かの奴隷だ。」
自由気ままに生きているように見えるアシェラッド。だが、そんな彼の口からこのような言葉が出る。トルフィンはいわば、プライドと過去の奴隷、と言ったところなのだろうか。この人々を縛る何か、というのは、この作品のテーマの一つじゃないかと俺は思う。
・「ねェ、君も奴隷(スレール)なの?」
・「でもなんかキミ…私と同じってかんじがするから。」
戦い続けているように見えながら、過去とプライドに縛られて仲間と騒ぐことも出来ないトルフィン。そんな彼に食事を(奴隷として)届けたホルザは、彼の心性のなかに自分に近いものを感じている。
・「奴隷の気持ちなんざ俺が知るか。オレはあんたとは違う!オレがあんただったらゴルムを殺して逃げる!追っ手も全員殺す!」
奴隷の気持ちは分からないと言いながら、彼は奴隷である仮定の話をする、その矛盾。もしも、縛られているのなら、彼は逃げるという。
・「……逃げて………どこまでも逃げて海の彼方まで逃げ切ったらそこには何があるのかしら。水平線のむこうに……もし……戦もなくて奴隷商人もいない…平和な国があるなら……ここではない…どこかに……」
奴隷で居つづけるのか。その鎖を断ち切って逃げるのか。その先に何があるのか。彼女のつぶやきに、トルフィンはある人物がした話を思い出す。
10年前のあの話を。
・「そしてワシは見つけた。果物が実り、草原波打つあの新天地をな。ワシは彼の地に小屋を建て名をつけた。
ヴィンランドと」
(長くなったので、16日の日記につづきます。)←なにやってんだか。