虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

今週のプラネテス-ΠΛΑΝΗΤΕΣ- PHASE.11「バウンダリー・ライン」

http://www.planet-es.net/
http://www3.nhk.or.jp/anime/planetes/


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●あらすじ(公式ページより)
 テクノーラ社へ宇宙服の営業の為に、小国エルタニカから一人の技術者、テマラがやって来た。彼の仕事に対する純粋な姿勢を見て、採用試験を手伝うことになったハチマキたちとクレア。ところがその最後の試験のため宇宙へ出たハチマキたちの前に、軌道保安庁の巡視船が現れ、試験の中止を告げるのであった…。


●メモ

 Boundary Line=国境線。地図と、人間の意識にしか見えない線。
 宇宙におけるマイノリティの物語。


「エルタニカって国をご存じですか?」「南米だろ?アマゾン川上流の。」

エルタニカ人技術者、テマラ・ポワチエ登場。

<初登場キャラ>
テマラ(テマラ・ポワチエ。エルタニカの宇宙服開発会社「エルタニカ・テクニカ」の研究所所長。)設定資料


「あなたの眼から恋愛光線が出てるのよ。ビィーッとね。その光線をグイーッとたどっていくと、オムツ男にぶつかるわけ。私には見えるのよ。」

 リュシーの恋愛虎の穴。結構色々タナベに相談受けているようで、「つき合っている男がいるか?」と聞いたことも彼女は知っている。
 恋愛ビーム、ってのは巧いな。さすが師匠。タナベにも分かりやすく説明する方便としては、この上なく適切。自らの欲得ずくとは言え、その辺は彼女の親友やってる女である。



「返せと言われても返せないぞ。」

 タナベとチェンシンを引き合わせはしたものの、ハチマキは不機嫌さを隠せない。さんざイヤみを言われるチェンシンもその明らかな不機嫌ぶりに気付いており、釘を刺す。



「あなたもエルタニカの人だなんて。」「エルタニカで生まれただけです。今はアメリカ人よ。」


 宇宙服の営業の為にやってきたテマラの採用試験担当になったクレア。社員食堂の料理を美味そうにほうばり、添えられたバターを内ポケットに入れてしまうテマラを、複雑な表情で見る。
 そんなクレアはエルタニカ出身であることを、無意識に否定しようとする。彼女はアメリカ人であろうとする。エルタニカ時代の無知だった自分を「上書き」するために、日々努力してきた彼女なのである。


「エルタニカなんて国の製品、本気で相手にしてはくれないわ。…結局スタートラインにすら立たせてもらえない。」


 だがテマラとデザイン面の問題だけで各部署門前払いを受け続けるうちに、彼の中にかつての自分を見出し始める。


「同情はごめんだってか?」「いいえ、それで仕事がスムーズに進むのなら喜んで頼らせてもらうわ。」

 宇宙服のテストを買って出るハチマキ。ハチマキの皮肉に対する発言に、いつもの上昇志向がやや抑えられて、マイノリティ出身者の現実的思考が優先されている精神的変化が見てとれる。テマラと出会った影響が出始めている。


「エルタニカ語は読めないんですね。」「文字も計算も全部、アメリカに行ってから覚えたわ。私は8歳だったけど、アメリカでは幼稚園児以下だった。」
「私も10歳までは文字は読めなかった。家族と一緒に中国に逃げて、そこで初めて文字を覚えたんです。そのまま中国で学位を得て、そしてエルタニカに戻りました。」


 同じ境遇を有するクレアとテマラ。


「どうして!?エルタニカは経済封鎖と内紛でボロボロなんでしょ!?」「だからこそ戻ったのです。エルタニカを救うのは軍事力でも主義主張でもない。産業を興して国を豊かにすることだと思うんです。私はエルタニカで宇宙産業を育てたい。もちろん宇宙で先進国クラブが幅を利かせているのは知っています。でもそれは地上でも同じなんです。同じ事なら私は大きい夢を見られる方に賭けたいのです。」

 生半可な同情を許さない覚悟を見せるテマラ。半ば見下していたおっさんにもう一つの有り得たかも知れない人生を提示され、動揺を隠せないクレア。


「この宇宙服が完成したとき研究室のみんなで名前を書きました。予算の都合で私ひとりしかこられなかったけど、でも、飛ぶのはみんな一緒です。」


 宇宙服に書かれていた文字は研究所所員の名前。テマラの同志たち。


「18日未明、連合国の治安維持軍がエルタニカに侵攻を開始しました。我々は連合より国外のエルタニカ人の身柄を保護するように命令を受けています。」


 宇宙服の試験中に軌道保安庁の横やりが入る、その理由。内紛が起こる→大国が治安維持と称して侵攻、というパターンは、2070年でも変わっていないのだった。同志たちや故国に迫る危機、なにより自分に課せられた使命が閉ざされそうになり、絶望の表情を浮かべるテマラ。


 だが、ハチマキの荒っぽい機転でテスト続行。残るは減圧対処テスト。


「カリガン、アロンゾ、システロ、モログル、デムラ、グルムチ、ツムダ、ジルボン、ゴロゴロ、ラキウ、イルボ、ポルムル、ロクク、ウララキ、スンヌ、ルシファー、ヌルガン、ロペック…」

 急減圧による減圧症で朦朧とする意識の中で、祈り、同志の名前を呼ぶテマラ。その呪文のような声。そんななかテマラはエルタニカ語でなにかを書き込み、そして最後にそれを口にする。


…クレア・ロンド



●雑感

 初見時は「プロジェクトXだー」とかのんきなこと思っていたのだけど、再見して、読み解けば読み解くほど重要な回だ。テマラ・ポワチエの名前を読み上げるシーン。テマラ・ポワチエの呪文に、シリーズを通じて彼女は囚われ続ける。


 テマラが最後に発した台詞(あえて書かない)は涙を誘わずにはおかないが、同時に彼もまたその国境線に囚われている。彼の涙はそこに囚われている自分にも嘆いているのではないだろうか。