5月6月の感想書き損ねた映画たち

帝一の國

 将来総理大臣を目指す破天荒な高校生が生徒会選挙に命を賭けるエリート高校生たちの頭脳戦というストーリーでありながら、青春の懊悩と友情の裏表、幼少期のトラウマと向き合う青春映画でもある離れ業。政治映画としてはやや青臭い部分もあるが、高校生と政治のバランスはこれでいい。
 面白かったけど、帝一が総理大臣になれるかどうかはまた別の話のようには思う。案外、帝一のような計算で動く男よりは、ライバル・大鷹弾みたいな周りが自然と支えていく男の方が国を動かす男になりそうな気はするし、帝一はサブに回った方がいい仕事することを証明した話だったような。

無限の住人

 良かった。時を経ても変わることを許されない男・万次を演じるのがキムタクという配役が白眉。キムタクは何を演じてもキムタクなのは変わらないんだが、この映画はそこがいい。杉咲花ちゃんも処女性と復讐の激情を身の内に同居させる凛というめんどくさい役柄を見事飲み込んでる。
 三池監督は沙村先生が持つ変態的な暴力性に背を向けることなく真っ向勝負してるのも気持ちがいい。逸刀流があっさりしすぎな気もするが、続編への未練を断ち切るかのような完全燃焼な脚本も良い。杉咲花ちゃんは今の少女性を持ち続けるにはギリギリの年齢だし、これでいいかもね。
 しかし全ての悲劇の始まりが音尾琢真の無念にあったというのはちょっと笑ってしまった。無骸流が今ひとつ不完全燃焼だったのは仕方がないか。みんな大好きドS変態クソ野郎尸良を出すためのエクスキューズだったんだろうが、しかしとことんクズだったのはさすが三池監督であった。

「タレンタイム〜優しい歌」

 タレンタイムという音楽イベントを通して描かれる悲喜こもごものドラマを描くこの映画自体は非常に娯楽的だが、その底に流れる宗教や人種間対立を内包するマレーシア社会を背景にしている。その中でより強く描き出されるのは前向きな、不寛容を超える若者たちへの希望だ。
 多民族国家ならではの様々な言語にさらに聴覚障害の若者の手話が加わり、様々な言葉が飛び交うが、同じ「言葉」を使えれば心が通じ合うとは限らないし、言葉を越えて通じ合う人々もいる。大人が持つ偏見を越えていくのは若者たちの感性だ!というメッセージが力強い。
 それにしても音楽が重要な映画で、見終わった後サントラが欲しくなるんだけど、取り扱いがまるでないのはなんでなんだ。itunesとかで配信しないかな。

「ノー・エスケープ 自由への国境」

 問答無用で移民を殺すジェフリー・ディーン・モーガンの演技が良い。基本頭おかしい凄腕スナイパー殺人鬼なんだけど、人間としての肉付けを付けて、ガエル・ガルシア・ベルナル演じるしがない自動車整備士につけいるスキのようなものを見せて行くさじ加減が見事。
 逃げ場なしの砂漠でワンショットワンキルで殺すスナイパー殺人鬼に狙われる絶望感。だけど砂漠という舞台は実は殺人鬼側にもリスクで、主人公たちが粘れば粘るほど射撃の精度が落ちてくる、という脚本がリアル。主人公が終始基本単なる凡人というのもいい。

「T2 トレインスポッティング

 これはあれだな。スコットランド版「男はつらいよ」だな。私生まれも育ちもスコットランドエディンバラでございます。スコットランド一汚いトイレで産湯を使い、姓はレントン名はマーク。人呼んでトンズラのレントンと発します。恥ずかしながら帰って参りました。
 なんかユアン・マクレガーとかジョニー・リー・ミラーが一丁前の役者になって地元に帰ってきたらヒゲが待っていて「いよーう、それじゃあとりあえず裸で草原や街中走ってもらおうかあ」とむちゃぶりされる「水曜どうでしょう」感とでも言おうか。

 「男はつらいよ」説には理由があって、つまるところシリーズを重ねるごとに観客が自らの人生の老いの残酷さや時代から次第に取り残される辛さを、観客が変わらない登場人物を通して噛みしめると言う映画になっているのよね。そんな映画が日本に毎年一回あった訳。
 本作が残酷なのは、第1作公開当時この映画が若者のアイコン映画だったこと。山田洋次作品だったらまだしも、若者の映画が20年後に中年老年の哀しみを描く映画として蘇るって監督ドS。「青春は終わった!人生に帰れ!」的な話だもんな。劇場版エヴァなんか目じゃない。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/リミックス」

おいおいどこまでぶち込んでくるんだよ!この映画からサプライズしか飛び出して来ねえよ!アイツの親父がアレでお前の妹がナニでお前らはコレだあ!で、最後は泣かせる場面しか出て来ねえ!一言叫ばせろ!

 改めて言うと面白かった。割とキャッチボール辺りからすでに泣いてたんだけど、最後らへんのド直球連投は逆に正直言うと愁嘆場が多すぎて逆に涙が引っ込むくらいに色々ぶち込んでくるので最初のような感想になるわけです。「銀魂」か!という。
 「家族」と言うワードの使い方のジャンプ漫画感、ヤンキー気質感は面白かったな。「ワイルド・スピード」シリーズでもそうだけど、家族の定義をどう考えるかはその人次第で、それで救われる人生もある、と言うのは現実世界でもある話。
 元々力の入り抜きの上手いシリーズではあったけど、オープニングからさすがと感心。ゲラゲラ笑わせながらその分、最後らへんは容赦する事なく力一杯泣きの棍棒で観客を引っ叩いてくるので弱い人は泣きっぱなしだろうなあという感じ。

マンチェスター・バイ・ザ・シー

 死んだものは蘇らない。壊れたものは戻らない。古傷は消えず痛く、越えられない壁はある。そんな世界に放り出され、1人彷徨する男が一筋の希望を見出す物語。本当にかすかで容易にかき消えるかもだが、それでも一歩を踏み出す為の正直しんどい人生の中の希望。
 終盤、ややどんよりした雲の切れ間に晴れ間が見えた途端に、いきなり夕立のゲリラ豪雨をぶち込む脚本がえげつない。しかも一見すると決して残酷には見えないところがスゴい。このシーンに悪人はいないんだよね。だけどこれは・・・。目の前がグラっとした。

「トンネル 闇に鎖された男」

http://d.hatena.ne.jp/toshi20/20170518#p1

「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ

ここ数年見たスーパーヒーロー映画を蹴散らす傑作。これは凄い。
スゲエのは主人公が中年のオッさんで偶然手に入れたスーパーパワーの使い方もとりあえず強盗に使うことしか思いつかないチンピラ。なのに心を壊したヒロインとの触れ合いを通して真のスーパーヒーローに覚醒していくまでを、非常に丁寧に描き出し観客を納得させる。
「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」から「ローガン」をはしごするとヒーローものの夜明けから黄昏までを体験できるのでオススメ。

バーニング・オーシャン

 ようやく見た。本当にバーニングなオーシャンだった。て言うか、複数の判断ミスが爆発的に激甚事故につながって行く様は完全にトラウマ。他人事感ゼロ。そりゃ関わった人やめちゃうよな、こんな事故に出会ったら。経済至上主義は人を殺す系映画。この映画に英雄はいない。
 「バーニング・オーシャン」という邦題は「DEEPWATER HORIZON」という原題よりも直接的で好きだが、原題はアメリカの内省的な映画である意味合いが強いので、これはこれで良い。

「ローガン/LOGAN」

 「ローガン」見ました。なるほど、良かった。

 本当に最後!と言う気合いが乗ってて、まさに「刻みつけた最後の爪跡」って感じ。一切未練を残さない幕引きは気持ち良かった。

 あと前から呟いてたけど、ローガンは老眼なのか?というワスの疑問にちゃんと答えてくれたの感動した。ローガン老眼!

「家族はつらいよ2」

家族はつらいよ2 [Blu-ray]

家族はつらいよ2 [Blu-ray]

ちょう面白かった。山田洋次は死なず!前作「母と暮せば」もなかなかに問題作で度肝抜かれたけど、本作は「生老死」を笑いに変えると言う北野武が「龍三」やりたかった事をいとも簡単に成し遂げてしまった。橋爪功の喜劇センスなくしては成立し得なかった事も付言しておきたい。
もちろんコメディの型としては年式古い。子役の演技も若者の描写もアナクロだし、こんな丁寧な喋り方をする40代50代はいないし、ケータイメールの描写も失笑だよ。その代わり老人の描き方だけは超リアルなんだな。それを橋本功が一手に引き受けてリアリズムある笑いにする。
橋爪功の家主としてのプライドはあって男としての若さへの未練もあって、でも次第に老いていく自分を受け入れられない小市民系老人の演技がとにかく絶品。彼が常に中心にいてそこに振り回される家族を実力派の中堅若手が固める構成が非常にピタッとハマってる。ネタも攻めてる。
今年公開の「破門」もそうだけど、橋爪功のコメディセンス衰えねえのすごいな。入り抜きの加減が完璧なんだよな。人間の小ささ、セコさ、愚かさ、哀しさを演じながらそれが鼻につかない、愛すべき人物になる。まさに名人が演じる落語の人物の如し。彼の代わりって日本にいるか?

ブラッド・ファーザー

ブラッド・ファーザー [Blu-ray]

ブラッド・ファーザー [Blu-ray]

老いさらばえたチンピラ親父が、失踪からひょっこり戻ってきた娘のために、なけなしのコネと体力使って人生の最後に大暴れする系映画。最近のトレンドかこれ。上映時間が90分以内なので小気味よく進むのが楽しい。「ローガン」に比べるとメル・ギブソンは父性全開で明快。
基本頭の悪いチンピラで悪い奴は大体友達、そのせいで人生遠回りした親父と、トラブルで闇社会に触れたり麻薬に手を出したりするけど元々快活で頭のいい娘と言うコンビが良い。「よくわからんがメキシコ移民は職を奪うから嫌い」と言うメルギブが娘に諭される場面面白い。

「おじいちゃんはデブゴン」

おじいちゃんはデブゴン [Blu-ray]

おじいちゃんはデブゴン [Blu-ray]

サモハンが元スゴ腕の軍人で孫を失ったトラウマ抱えて故郷に隠遁した認知症老人と言う、なかなかに複雑な役を言葉少なに演じるアクション映画。孫の面影を感じる少女との心温まる交流と、相手の得物を奪った上で肉体破壊して沈黙させる冷徹アクションの落差凄い。
アンディ・ラウが準主演級で登場。基本クズだが、行動や妻子への愛情が裏目に出て人生崖っぷちのトラブルメイカーと言う何もアンディが演じなくてもって役を熱演してて何でかと思ったら、ラストの後に余禄シーンからスタッフロールでアンディの失恋バラード流れて納得した

「昼顔」劇場版

ヤバイ。これヤバイ。奪い奪われる者の業の深さを描き切った大傑作!やはり、俺たちの西谷弘監督は本物だ。やりおる。
不倫愛の果てに2人で生きる決断をしたカップルに待ち受ける罪と罰。許されぬ禁断愛、などというキラキラと惹かれ合う男女の不倫愛の光と闇を明らかに描き出し、お前ら純粋な愛の物語で終われると思うなよ!という、明確な意思を持って描かれてるのがすごいわ。伊藤歩が裏ヒロイン。
本作は配役の勝利だわ。華のある上戸彩を無邪気に夫を奪う表ヒロインとし、奪われる妻役に伊藤歩という、華は足りないけど演技力抜群な若手女優を配置した事で、この映画の陰影がより深まった。何気に重要なレストランオーナー役平山浩行も、チャラさと重さが同居するいい存在感だった。