虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ONE PIECE FILM Z」

原作・総合プロデューサー :尾田栄一郎
監督 :長峯達也
脚本 :鈴木おさむ



 ようやく見た。


 この映画の公開が12月の中旬くらいだったと思うんだけど、クリスマス直前くらいに見に行った会社の同僚から「カップルだらけだった」という話を聞いてなんというか、「ほお」と思うわけです。先日初めて映画化された「HUNTER×HUNTER」と連載開始日がそう変わらない「ONE PIECE」という漫画。始まったのが1997年。
 そこからずーっとジャンプの看板張って15年も経過するとですよ。10歳の子供も25歳の青年になってたりするわけでね。しかも、ジャンプが女性読者を急速に取り込み始めたのがゼロ年代だから、まさに「ONE PIECE」映画でデート、という選択肢もアリということになる。感覚的には「ディズニー映画」をデートで見るという感覚に近いのでしょうな。


 しかし、数年前までのワンピ映画と言えば迷走に次ぐ迷走という印象が強くて、細田守監督ファンからは評価の高い「オマツリ男爵と秘密の島」にしたってが、もうもはや「ワンピース」本編とは異質な物語になっていて、その流れを揺り戻すかのように作られた「エピソード・オブ・アラバスタ」「エピソード・オブ・チョッパー」などの「原作の総集編的映画」辺りでの興業は完全にじり貧で、「こりゃ打ち切りもあるな」と思った時期もあっただけに、ここにきての爆発的大ヒットで1月末の時点で60億円超えの興業という「ワンピース」ブランド化の加速は、原作者が脚本から関わった前作「ONE PIECE FILM STRONG WORLD*1の力が大きいのだろう。



 で、「Z」である。面白かったか。


 個人的には前作の方が好きだし出来映えもちょっと落ちる感じなんだけど、今回のボスキャラ・ゼットのキャラクター造形は面白かった。
 ゼットは元・海軍大将・黒腕のゼファーという、海軍の中では指折りのエリートだった男で、海賊たちによって家族を失い、また教え子たちを死なせてしまうという絶望から、「NEO海軍」という独立愚連隊を作って、「海賊を全滅させる」という目的のために、「悪魔の実」能力者に絶大な力を発揮する「海楼石」で出来た武器を、己の腕に取り付け、「新世界」の海賊を全滅させる作戦を実行しようとする。


 例えるなら、火付盗賊改方長官が、家族や密偵たちを皆殺しにされ、残った佐嶋やうさちゅうとともに武士をやめて、「真・火盗改」を組織して盗賊を見つけては殺して回るみたいな話である。
 抱えたものの大きさや、絶望の深さゆえに、狂気にすらなりきれず、あえて「狂っている」と「思い込む」ことでしか、「憎しみと哀しみ」を振り払えない。70歳(!)という年齢にして筋骨隆々、ルフィと相対して2度退けるほどの、圧倒的な力を持ちながら、死に場所を求めて海賊や海軍、一般人すら巻き込んでまでさすらい歩く哀しい男として描かれているのが面白い。
 そして「海軍」から「足抜け」した男を、「海軍」は無視できるはずもなかった。海賊と海軍。ゼットはそのふたつを敵に回している。


 そしてそんな男を「見守る」、彼の弟子でもあり元・海軍大将である青キジ(クザン)*2との、奇妙な絆の物語でもある。


 映画として見ると、ファン向けのお約束とも言うべき序盤の「麦わら海賊団」のから騒ぎなコメディシーンが鈍重な上笑えないのではっきり言って「邪魔」。
 ゼットは海を漂流したところを麦わら海賊団に救われるのだが、彼らが海賊と知るや、合流した仲間とともにルフィたちに襲いかかる辺りから物語は大きく動き出すわけだが、ゼットに関わる大きな動機となるNEO海軍の女剣士・アインの「相手を12歳戻せる能力」による「幼女ナミ」「子チョッパー」「ハイティーンロビン」というファン向け「サービス」も、個人的には「イラネ」と思った。
 オレ的には「そんなこざかしい真似はいい。もっともっと、このジジイを映せ」というのが本音である。
 

 ルフィの場合、ゼットに関わろうとする動機が、「ぶん殴られたのはシャクだからぶん殴り返したい」という動機なんだけど、ゼットを急襲しながらも返り討ちに遭う上に、もしも青キジがいたずらに助けなかったら死んでる、というかなりの追い込まれ方をする。
 つまり、ゼットに対しては力押しだけでは叶わない。しかし、それでも立ち向かうルフィたちに対して、かつての「黒腕のゼファー」を持っていた頃の気持ちを取り戻すことによって、彼はようやく心の安寧を得て、死地へと向かう。


 もっと「死に場所を求める哀しいジジィ」映画としてブラッシュアップされていたなら傑作だったろうが、「ワンピース」映画としてのお約束やサービスが話の流れを削いでしまったのが惜しい佳作でした。(★★★☆)

*1:感想書いてないけど映画館で見たよ。面白かったよ。0巻も持ってるよ。

*2:鬼平なら岸井左馬之助くらいの立ち位置