虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「デイジー」

toshi202006-05-29

監督:アンドリュー・ラウ 脚本:クァク・ジェヨン


 オランダの田舎でアタシ、あの人に出会ったの。丸太橋でズコっとコケて川に落ちたあたしを気遣って、橋を造ってくださったお方がいたの。アムステルダムに移った私に、あの方はデイジーの花を贈ってくださるの。ああ、デイジーの花の人。あなたは、一体だれなのかしら。ルルルンルルルン♪


 ・・・という、いまどき、こんな「紫のバラの人」を信じる女の子・・・と呼んでいいのかすら微妙な25歳の画学生。これを堂々とやれちゃうのは韓国くらいだろうか。そんな彼女に近づいていちゃいちゃし始める男が登場。いやあ、このアマ女性がチョン・ジヒョンじゃなかったら、蹴り殺してるよなあー、みたいな感じで展開する微妙な恋愛模様。男のモノローグが入って「僕はICPOの刑事だ」みたいなこと言い始めても、イチャイチャムードが変わらないので高括って見てたら、突然始まる銃撃戦。
 ここだけいきなりガチの香港ノワール。演出があきらかに変わってビビる。そして男は重傷を負って韓国へ帰国。女性は銃撃戦の流れ弾に当たり、声を失うのだった。


 ここで視点が変わる。


 あなたを一目見たその日から、恋の花咲くこともある。ああ、君はなんて美しいんだ。でも、僕はスナイパー。君みたいな女性を愛してはいけないのだ。きみは覚えているだろうか。あのオランダの田舎の橋を造ったのは僕なんだよ。君への思いが募るたび、君があの田舎で描いていたデイジーの花を贈ろう。いつまでも僕は君を見守っているよ・・・・。



 と、ストーカー愛に目覚める青年が登場。ここまで堂々としたストーカーをぬけぬけと「純愛」として描く素晴らしさ。シリアスな場面なのに、やたらと笑いがとまらない。これで、この孤高の変態スナイパーがチョン・ウソンじゃなかったら撃ち殺してるところだが、やがて、物語はままごとみたいな恋愛模様に、命を張ったノワールの闇が押し寄せてくるのだった。


 韓国純愛職人監督・クァク・ジェヨンが描く殺し屋と警官に愛されてしまった画学生のラブストーリーを、アンドリュー・ラウ監督は基本的にその路線に忠実なに描きつつ、銃撃戦になると「インファナル・アフェア」なガチ演出を披露してしまう。
 純情少女漫画と青年バイオレンス漫画を無理矢理同居させたようなアンバランス。それもこれもアンドリュー・ラウが器用すぎるからだとは思う。その微妙な恋愛模様にそぐわない、映像の暴力性が、すっげー変。「レオン」みたいに、ヒリヒリした純愛という風でなく、あくまでもライトで健全な「お友達から始めるおつきあい」をしようとするクソ真面目な殺し屋、という話がギャグなしで展開するのがその主因であろうか。


 でも映画として、それなりにスクリーンに映えるものに仕上げてくるあたりは、さすがアンドリュー・ラウ。登場するスターのファンならば楽しめるだろうし、このアンバランスさも受け入れてしまえば楽しめないこともないのです。(★★★)