虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「きっと、うまくいく」

toshi202013-05-26

原題:3 idiots
監督:ラージクマール・ヒラーニ


 面白かった。うん。
 インド映画って両手に余らないくらいしか見てないので、印象としてこう「油ギッシュなサービス満載映画」というか「娯楽の洪水を胃もたれ覚悟でみる映画」という印象があったんだけど、「ああー、ちゃんとしてる。」と思いながら見てた。「脚本をきちんと練る」「伏線をきちんと張って回収する」「ミュージカルシーンにある程度の整合性を持たせる」「インドの今を描く」みたいなこともきちんとやってる、という意味で、こういう映画が出始めているんだ、という素朴な感想でね。
 嫌みな留学生にスピーチで「言い間違い」をさせて笑うという場面で、「奇跡」を「強姦」と言い変えさせる、という、日本でやったら表現としてもいじめ表現としてもかなりアウトな場面もあったりするのだが、「そういうのアリなんだ」というところも含めて興味深く見た。


 話としては「一昔前の日本映画・ドラマ」の価値観にすごく近いというか、「僕たちは、競争社会の中で追いまくられていて本当の自分を見失ってるのではないか」というテーマを、真正面から描いていて、正直「懐かしい」感じがする。急速な経済発展で「エンジニアや医者になって、立派な企業に入って幸せに」という「方程式」が浸透したせいか、競争社会に押しつぶさそうなニンゲンたちが如何にそこから逃れるか、というテーマは高度成長期の日本の若者が直面していたテーマでもあったろう。
 この映画では、エリートを目指したプレッシャーゆえの若者の自殺が病死より多いというデータが主人公によって示され、彼らが抱える深刻な問題として描かれている。


 物語は、工科大学という「エリート予備軍」の中のはぐれ者3人組の青春と、10年後に3人組の中心人物だった男を残りの2人とライバルの留学生が探し歩くうちに、彼の抱えた秘密を知ることになるミステリーを交互に描く構成。
 本当は動物写真家になりたかったけど、親の希望で工科大学に入ったファルハーンと、極貧の中で育ち、彼らを養うためにエンジニアへの道を志したラージューという「オトナが敷いた価値観の上でで汲々とする」若者ふたりがいて、そんな彼らの前に自由を愛する型破りな男・ランチョーが現れ、意気投合する。
 工科大学には「競争に勝ち残ってエリートになること」を至上とする鬼学長やそうなることを信じて疑わない留学生などがいて、ランチョーたちは事あるごとに彼らとぶつかることになる。


 で、困難が立ちふさがったときにランチョーが唱えるおまじないが、「Aal Izz Well(All is wellのもじり)」である。日本語字幕では「うまーくいーく」と訳されていて、邦題として使われている。
 でまあ、ミュージカルシーンを見てなんとなく思っていたのだが 「Aal Izz Well」のエッセンスとして一番適した言葉はなにかと言うと。たぶん志村けんのあの言葉だと思う。




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 そう、「だいじょうぶだぁ」である。



 この番組の「だいじょうぶだぁ」というタイトルの語源となってるのは、『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』の、「だいじょうぶだぁ教」というコント。お経の代わりに「だいじょうぶだぁ」と唱えるコントなのだが、「Aal Izz Well」のところにその「だいじょうぶだぁ」と歌ってみるとすげえしっくりくる。
 心の中に困難が起こり、そのプレッシャーの中で心が押しつぶされそうになっても、とりあえず死に急ぐな。生きていれば浮かぶ瀬もあれ。死んでしまえばそれまでだ。それもつらくなった、そんな時はこの言葉を唱えよう。


 「♪だいじょうぶだあ。うぇっうぇっうぇっ。♪」


 この映画は後半ミステリー仕立てになっていて、3馬鹿トリオの中心にいたランチョーが大学卒業から10年後にどうなったか、というのが話の眼目ではあるのだが、伏線自体はものすごくわかりやすくバレバレなので、クライマックスは思わず劇場で「志村、うしろ!うしろ!」気分を味わうこと必定。それも含めて思うのは、「志村けんって偉大だな」ということだった。結論そこか!だっふんだ。(★★★★)

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