虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ふがいない僕は空を見た」

toshi202012-11-17

監督:タナダユキ
原作:窪美澄
脚本:向井康介


 「百万円と苦虫女」「俺たちに明日はないッス」のタナダユキ監督の新作。


 いやー、長い。2時間22分もありやんの。


 というわけで上映時間が長かったんだけど、見ている間中緊張感は途切れなかったのはなるほど、力のある監督だな、と思いながら見てました。


 とにかく「オタクな主婦・田畑智子がコスプレしながら、イケメン高校生・永山絢斗クンとイタす」なんてところから映画は始まるわけさ。ちょっとなんかこう、絵が崩れた「カードキャプターさくら」みたいなヒロインの映画内世界のアニメ*1のキャラクターのコスプレしながら挿入するプレイという。
 で、最初は助産婦さんを母に持つ高校生・永山絢斗くん視点。永山くんはお金で買われて田畑智子と肉体関係を続けていたけどずっと好きだった同級生にコクられて田畑智子と別れを切り出して捨てる。だけど、ずっと「生」でイタしてたから、とにかく彼女が妊娠してないか気が気でない。そのうちに、田畑智子への気持ちと欲望が膨らんで、永山くんは結果、田畑智子のもとへ戻る。めでたしめでたし。
 ・・・とは、もちろんならない。物語は時間をちょっと戻して、田畑智子サイドの物語になる。

 
 田畑智子は姑さんから「孫」を産むように事あるごとにプレッシャーを掛けられてきた。不妊治療にも取り組んだが、夫婦ともに原因を抱え込んでいてなかなかうまくいかない。そして、ある日姑は発狂するかのように彼女をなじり始める。
 そんな時に、彼女はそんな現実から逃避するかのように、昔ハマった美少女アニメの世界に再びのめり込み、コスプレをしながら同人誌即売会に参加している時に、たまたま友達に連れられてきた、アニメのヒロインのあこがれの人によく似た永山くんと知り合うことになり、色々あって2人は関係を持つようになっていくのだが。
 ある日、その関係は思わぬ形で露見して、やがて2人の「プレイ」が世間に周知されてしまう。


 さて。話は変わる。


 僕は今、世間では最低視聴率を絶賛更新中として話題の大河ドラマ平清盛」に夢中である。近年これほど面白い大河はなかったと豪語できるほどに、のめり込んで見ているのだが、ま、それはともかく。
 「平清盛」で清盛の長男・平重盛役である窪田正孝くんの評価が僕の中でうなぎ登りである。平清盛後白河法皇の板挟みになりながら、苦悩に苦悩を重ね、やがて、忠義を尽くした法皇に裏切られて失意の中死んでいく、という悲劇の平氏の棟梁を熱演しており、その演技にテレビの前で落涙したほどであるが。


 その窪田正孝くんがこの映画にも出ている。窪田くんは永山くんと親しくしている団地住まいの高校の同級生役という、大河ドラマとはまったく違う顔を見せており、「うわー新鮮ー!」などと思いつつ見ていた。
 大河ドラマでは清盛の長男という立場で棟梁になる苦悩に満ちた半生を送る青年〜中年であったが、こっちでは母親が借金を重ねた挙げ句、痴呆が進んだ祖母を置いて男と家を出た家の子で、とにかく金がないからバイトするしかない。金がないという現実の中で、大学に行くこともあきらめて勉強する意欲も失せているという、重盛とは真逆な意味で追い詰められた少年である。
 だが、彼はどうしても団地を出たかった。でもどうすることも出来ないじゃんか。そう思っていた時に、勉強を見てやると言ってくれる人が現れる。それはバイト先の同僚で、万引きをする子供の扱いもうまい、病院院長の息子である青年である。しかし、その青年にはある秘密があった。


 むしろ切実なのは、前半部で描かれる田畑ちゃん&永山くんの話よりも、後半部で描かれる永山くんの母親・原田美枝子や窪田くんなどの話の方で、窪田くんなどは「なぜ俺は生まれたのか。なぜ俺を産んだのか。」と生まれたことを呪うほどに、彼は絶望を感じながら生きている。
 そして、彼は幼なじみでバイト先の同僚である女の子と、ある「悪意」をばらまくことに荷担する。


 ところが、である。最後にとんでもないどんでん返しが待っている。
 (ここからややネタバレ)





 この映画は、終盤、再び永山くんの手に物語が渡る。そもそも田畑智子永山絢斗くんの「関係」は何故、「露見」したのか。そしてその「首謀者」は誰か。この映画はミスリードにミスリードを重ね、あえて詳細には言及しないで終わるのだが・・・。終盤の展開を見ていた僕は『2人の「関係」を世間に流したのは誰か』を確信する。その観客の「気づき」こそが、この映画で語られるべき「本筋」である。


 そして見終わった後、思うのである。これが本筋なら、窪田正孝くんメインの話、要らなかったじゃんか」と。
 窪田くんのパートがなければ多分1時間半ちょいくらいで終わってる話じゃないか?物語の本筋をぶった切って、上映時間も顧みずにこれほど切実でこれほど痛みの深い話を窪田正孝くんの素晴らしい演技を引き出しながら挿入したのに、その挿話をすべて無意味にしてしまう脚本の構成が非常にもったいない作品である。(★★★)

*1:一応GONZOが関わってるらしい