虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「黄金を抱いて翔べ」

toshi202012-11-05

監督:井筒和幸
原作:高村薫


 井筒和幸監督の新作は高村薫の処女長編の映画化。


 妻子持ちで大阪でトラックドライバーを生業としている北川浩二(浅野忠信)は、かつての大学の同級生で過激左翼団体相手に調達屋をしていた幸田弘之(妻夫木聡)に大手銀行の地下に眠る金塊を強奪する計画を持ちかけ、仲間に引き入れる。女性問題で多額の借金を抱える銀行担当のシステムエンジニアの野田(桐谷健太)をすでに仲間に引き入れていた北川は、爆弾を作れるプロフェッショナルと、エレベーターをいじれるエレベーター技師を探していた。爆弾担当は幸田のツテから通称・モモ(チャンミン)を、エレベーター担当は野田が仕事で知り合った元技師のジイちゃん(西田敏行)を引き入れ、さらに北川の電話の最中に計画を聞いてしまった自殺願望の強いギャンブル狂いの弟・北川春樹(溝端淳平)を含めた6名で、計画は本格始動するのだが。


 銀行強奪映画と言えばクールで知的、そしてどこか躁状態のような高揚感があるものだが、この映画に出てくる男たちは、計画は緻密とはいいがたく、必要物資は強奪に次ぐ強奪、行き当たりばったり、コンピューター会社の一サラリーマンとして借金をどうにかしたいと参加する野田を除いては、屈折した過去を抱えてどこか鬱々としている。


 現在を書き換えても、過去は変えられない。
 どんなに黄金色のミライを想像しても、過去はどんどん追ってくる。大金を目指して動き出した男たちに降りかかる数々の障壁は、彼ら自身が積み上げてきた過去である。新たなつながりで動く彼らだが、どこまでも過去の因縁やしがらみは、そう簡単に振り払えない。かつてトラブルを起こしたヤクザに、かつて取引があった極左勢力に、さらに北の某国の諜報組織やらが絡んで、彼らの計画の行く手を騒がしく阻む。
 そもそも計画に参加した男たちは、脳天気に「大金ほしさ」に集まったというよりは、ここより他に行く場所をなくした、寄る辺なき漂流者という側面がある。北川は例え計画が穴だらけでも行き当たりばったりでも、生来の「勢いの良さ」だけで突っ走るだけだし、そんな男の「計画」に乗ること自体、彼らはただ「大金をつかみたい」という理由で集ったわけではないことがわかる。


 ここで終わってもいい。ここではないどこかへ行けるなら。


 この映画は強奪の駆け引きを楽しむ映画ではない。「破滅」の匂いに集う男たちを見つめる映画である。どこまでもどこまでも深く。それぞれの黄金色の「ミライ」を抱いて、男たちは金塊へと近づいていく。そこで幸田を待つ「ある真実」。過去に追われる男たちが、過去を振り切るか、飲まれるか。この映画は、スリリングな犯罪劇でありながら、観客はそこに関わる男たちの、それぞれの行く末を見つめることになるのである。(★★★★)