監督・脚本:矢口史靖
鈴木重光。73歳。仕事一筋生きてきたが、定年を迎えて数年経つ。妻には先立たれ、偏屈な性格のせいで愛する孫達との関係もうまくいかないし、老人会でも主役になれない。娘にはボケの心配までされ、「また働いてみたら?」などと言われる。仕方ないと新聞に挟まってる求人広告を探してみるも、70過ぎの老人を採ろうという職場もなさそうだ。
・・・と思ってふとみると、年齢不問で着ぐるみの仕事。日当3万円とある。一旦はめんどくさくなってやめようと思ったが、ふとした場所で見た同年代のボケたばあちゃんの姿にぞっとする。おれもいずれああなるのか。そう思うと「ボケないためにも働きたい」と思い、その「着ぐるみ」とやらの仕事の面接を受けてみることにする。なによりも孫が喜ぶかもわからんしな。
こうして鈴木重光は、公民館で「ロボット役の着ぐるみ」の仕事として面接を受ける。最初は不合格だったが、なにかのトラブルがあったのか、合格者が不適格だったらしく、お鉢が彼に回ってきた。しかし、その仕事はひょんなことから壊れたロボットの代わりに、ロボットの外殻を着てロボット博覧会に「お披露目」されることだった。
一回こっきりのはずの仕事。だが、博覧会に来ていたひとりの女性(吉高由里子)を救助したことから、彼が扮したロボット「ニュー潮風」は瞬く間に、世間の注目の的になっていく。
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いわゆる「影武者」もののシチュエーションコメディである。とある中堅電器会社・木村電気の冴えないオチこぼれ社員の吹きだまりであるロボット研究課の面々。いちおう二足歩行のベースとなる部分と外殻は作り上げたものの肝心の中身が壊れてしまい、博覧会に出場できそうにない。そこで、影武者となる「中の人」を社外から雇って博覧会に「出品」するが、中の人が「暴走」したのをきっかけに世間からの注目を集め、お披露目行脚の旅を「中の人」とともに強いられるはめになる。
そんな、ちょっとした「嘘」から始まる「偽者」たちの「大嘘」の物語。そこに、「(偽)ロボット」に助けられた「(本物)ロボット(大マジ)オタク」の女の子(吉高由里子)が「(偽)ロボット」の追っかけを始めたことから、物語は意外な方向へと流れ始める。
矢口監督は冴えないオチこぼれ社員のデブ(川居正悟)・チビ(濱田岳)・のっぽ(川島潤哉)の3人組の七転八倒や、(偽)ロボットの中の人である老人(五十嵐信次郎=ミッキー・カーチス)の孤独や葛藤を暖かい目線でリアリティを交えて描きつつ、彼らに1人の女性が無理矢理関わっていくことで、「偽物」の彼らが「本物」になっていこうとする姿を描いてく。
この映画にはロボットを実際に製作している会社から、実際に開発されているロボットたちを劇中に登場させ、さらには「ガンダム」のモビルスーツ、コスプレ大会で初音ミクを代表とする「ボーカロイド」、「よつばと!」のダンボー(まさしく偽ロボット!)、さらには鋼の錬金術師のエド(弟・アルが甲冑そのものに魂が宿って「中の人」がいない=「ニュー潮風」とは真逆!)などロボットや、彼らの状況に関連のあるエレメントをロボット愛たっぷりに劇中にちりばめているのが楽しくて、思わずにやにやしてしまう。
なにより吉高由里子が「ロボット愛」の象徴として、狂気にも似た愛情表現をしまくり、その姿がチョット怖いけどチョー可愛い!←重要。
そして物語は、クライマックスで、ネット及び東スポ(笑)から噴き出した人気者「ニュー潮風」偽物疑惑をマスコミが追求しはじめていき、3人組は窮地に立たされることになる。
人間は誰しも最初は「本物」ではない。「偽物」である。しかし、「本物」になろうとする意志がなければ「偽物」は「偽物」のままだ。例え、その存在が「嘘」だとしてもそれを「本当」にすることは出来るのか。
矢口監督はその答えを最後に示す。それは、「本物」になろうとする者たちへの「エール」である。
ロボットにまつわる「嘘」から始まった物語は、様々に張られた伏線を鮮やかに回収しながら、やがて「青年たちと少女の成長」と、老人へのちょっとした「人生へのごほうび」とともに幕を閉じる。その見事な幕切れに、エンドロールでミッキー・カーチスが歌う「MR.ROBOTO」が流れる粋な仕掛けに、スタンディングオベーションも辞さないほど感動した私である。エンターテイメントを作り続けてきた矢口史靖監督がたどりついた一つの到達点。むろん彼の最高傑作であると断言できる。
老若男女問わず、必見の娯楽作である!(★★★★★)