「超劇場版ケロロ軍曹 撃侵ドラゴンウォリアーズであります!」
監督:山口晋
原作:吉崎観音
脚本:山口宏
異変はすでに起こっている。それでも、自分たちに直接的な被害がなければ、人はそれをたやすく受け入れる。「日向家」もまた、「それ」の出現以降も、変わらぬ日常を続けていた・・・。
という出だしで始まる、「ケロロ軍曹」第4作。晴れて「超劇場版ケロロ軍曹」のナンバリングが取れ、長期シリーズ化が半ば決まったような形での公開と相成った。
前作までの「キルル3部作」が完結し、第3作でアクションに次ぐアクションのかため打ちをしたために、ある程度バリエーションはやり尽くした感のある「ケロロ軍曹」は今回、変則球を投げてきた。
テーマは「ドラゴン」である。
東京、NY、シドニー、アフリカ、パリ。5カ所で突然発生した謎の「アーチ」を調べていたケロロ小隊の面々は、ある異変をきっかけに、ケロロを除いた全員が行方不明となる。
現れたのは、彼らに似た、ドラゴンだった、
制作:サンライズで、ドル箱シリーズということで、作画の質の盤石さは今回も健在で、淀みない作画の力を存分に堪能させつつ、硬軟使い分けたストーリーテリングで順調に風呂敷を広げていく序盤の手際は「さすが」の一言。第2作より続けて登板の山口晋監督は順調にその腕を上げている。
ただ、今回はちょっと趣を異にしているのは、今回の騒動の鍵をにぎる少女・シオンの有り様にある気がする。
シオンという少女は、ドラグーン家という龍に纏わる家系の子で、冬樹とほぼ同い年くらいながら、ひきこもりがちとは言え、両親が亡くなった後も気丈に葬儀を取り仕切るだけの聡明さと気持ちの強さを持ち合わせた娘なのだけど、彼女が今回の騒動を引き起こすきっかけとなったのは「地球龍」という龍の声を彼女が聴いたことに端を発する。
彼女は地球龍という「これから生まれる生命」の守り人を必要とする観点から、5匹の「ドラゴンウォーリアー」が必要であることを知り、ケロロやその仲間たちを巻き込んでいく。
地球龍は惑星そのものを「卵」として、そこで何千年もかけて生命となっていく、という設定なのだけど、シオンが龍の声で目覚めてしまうのは「母性」なのではないか、と見ていて思った。
本来なら両親の死にも取り乱さない思慮深さを持っているはずの少女が、これほどまでに愚かしく世界を巻き込んだ騒動を起こしていくのは、彼女が「地球龍」の声に「母」としての本能を刺激されたから、と見ると、この映画は面白い。
ただ、この映画はその迷惑の度合いが甚大であるにも関わらず、彼女にある種の救いを持たさねばならない、という、非常にめんどくさい回収を迫られたのは事実なんだが、その辺のバランスは、正直厳しいものがある。いくら彼女に「悪意」がないとはいえ、今回の騒動はいくらなんでも世界レベルに広げた迷惑で、その後の彼女へのおとがめなり反省がまったくないのは、ちょっと首肯しがたいものが残った。
また、前作ほどクライマックスへのストーリーの切り方が巧くないのも事実で、ピンチを(伏線があるにはあったにしろ)ご都合主義で回避する場面が、かなり多いので「あれ?」と思う箇所も多い。4匹の龍が登場したときは米軍が介入する描写をしたのに、4匹の龍がフランスに飛来する際にフランス軍に迎撃させる描写がないのはおかしいだろ(むしろそっちが重要だろ)と思ったりもした。
「モン・サン・ミシェル」に全員集合!という段の「いくらなんでもそらないやろ」な登場の仕方をする人もいるので、ご都合主義でなく、なおかつ外連を忘れることなく、ストーリーを違和感なく展開させる道は厳しいな、と思った。
それでも前作でもあった、クライマックスに「ケロロ×冬樹」「ギロロ×夏美」と言った5組のタッグを組ませるという形は残し、マンネリ打破のために新たな形を模索しつつ、その為にこれほどの風呂敷を広げ、齟齬がありつつも回収仕切って上映時間「85分」という、その手際は「映画ドラえもん」スタッフに見習わせたい。
毎年新作で勝負しながら、年々安定感を増していく。今あるテレビの劇場版アニメシリーズで、一番安心して見られるシリーズに成長しつつあることに、素直に拍手を送りたい(★★★☆)
追記:同時上映の短編「ケロ0(ゼロ)出発だよ!全員集合!!」(監督:近藤信宏)もかなり作画に力が入っていて見応えがあった。特別出演?のガルル中尉がとにかくかっこえがった。
関連:「超劇場版ケロロ軍曹3/ケロロ対ケロロ 天空大決戦であります!」感想
http://d.hatena.ne.jp/toshi20/20080309#p1