虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「プライド」

toshi202009-02-06

監督:金子修介
原作:一条ゆかり
脚本:高橋美幸伊藤秀裕



 プライド高い生粋のお嬢様・と、アルバイト掛け持ちの苦学生。二人の出会いが、やがて骨肉の争いへと発展する。


 原作は未読。


 面白かったっすわ。
 昼メロ並の虚構性を持つ脚本を、それを自明のものとして押し通す金子監督の意図は徹底していて、ここ数作ひたすら漫画原作映画を作り続けたノウハウをすべてつぎ込んだような映画と相成った。


 プライドの為なら恋心すら捨て去る女と、現状から脱出して自分が望むものを手に入れるためなら、プライドなど犬に喰わせるという女。オペラという題材を扱いながら、クライマックスはどっちかっつーと井筒カントクの「のど自慢」的なんだけど。


 偶然の邂逅、お嬢様・麻見史緒(ステファニー)の、緑川 萌(満島ひかり)気まぐれな温情から始まる、海外留学を賭けて火花を散らす昼メロのような筋立ての序盤から、銀座のバーのママの高島礼子が「すべてのルール」を取り仕切る世界「クラブ・プリマドンナ」に舞台を移してからのヒロインふたりの駆け引きが俄然面白く、ヒロイン2人+男2人の思惑が交錯しながらすれ違うドラマがいい。
 歌のために偽装婚約を受け入れる女、あこがれの人を追い求めてホステスとしてのし上がる女、今は亡きあこがれの人の影を求めて婚約を迫る男、ニューヨークデビューのために「自分の歌姫」を探し続ける男。


 4人それぞれが望むものが、それぞれに食い違い、それゆえに傷つけあう。


 歌唱面への充実のために硬質な女・史緒役にステファニーを配置し、演技力の充実の必要性から情念の女・萌に満島ひかりを配役した辺りもなかなかうまくいってて、特に満島ひかりは素晴らしい。自分が追い求めるもののためになら母すら手にかけようとする執念の女を、かなり堂に入った演技で演じてて、日本刀持って母親を追い回すシーンとか、新山千春演じるあこがれの副社長の秘書に対してガンつける演技とか、かなり良かった。
 

 この映画が、流転しながらも一向にぶれないのは、お嬢様育ちの史緒が常に「歌う」ことへの情熱へと向かうからであり、だからこそ「プライド」というタイトルに意味がある。プライドを捨てた女・萌にもまた、プライドを捨ててまで食らいついた、歌い手としてのプライドを持ち続けている。
 それがベタながらも、「歌へのプライド」だけが純粋に高めあっていくクライマックスのライブシーンで見事に昇華する手際はさすがで、少女漫画とは思えぬ物語の落としどころもなかなかキマっていて最後にはきっちりと爽快感を残す秀作。(★★★★)