虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「大いなる陰謀」

toshi202008-04-18

原題:Lions for Lambs
監督:ロバート・レッドフォード
脚本:マシュー・マイケル・カーナハン




 2つの会話劇、1つの戦場を通してロバート・レッドフォードが織りなすメッセージ映画。



 この映画は論戦を張ることを目的としたものではなく、この映画を通してアメリカ人は何を見逃してきたのか、ということを描き、その上であらためて、社会と向き合え、変革を志向せよ!とたきつける。
 ひとつの作戦で対テロ戦争を正当化しようとする政治家と、ジャーナリストとしての魂を持ちながらも現実に足を絡め取られるベテランテレビ記者。2人の若者を戦場に行かせることを容認したことを後悔する教授と、世の中を見通す目を持ちながらもあまりに現実が見えすぎて行動することができない若き生徒。それぞれが、持論を展開しつつ、その思惑を明らかにしていく。

 そのふたつの会話が、ひとつの戦場についての二つの側面を描き出していく。そこに浮かび上がるのは、貧困を超えて学ぶ意志にあふれ、意義深い青春を送ろうと戦場へ行った若者たちを、アメリカは何人殺してきたか、という問いだ。

 
 それぞれの思惑や思想を、ぶつけあいながら、やがて見えてくる、この国(アメリカ)の不合理。政治家やマスコミ(Lambs)にアメリカ(Lion)をまかせておいてはならない。未来を変えるのは若者たちなのだ!とレッドフォードは、この映画を通して観客に突きつける。「大いなる陰謀」にかかっているのは、トム・クルーズ演じる政治家のたくらみと、もうひとつ、「レッドフォード」のたくらみ(若者をたきつける教授)ともかかっているのだるう、と思う。


 ・・・まあそれを理解した上で思うのは、ややメッセージ性や理屈が先行しすぎているきらいがあることで、正直もう少しエンターテイメントを志向してもいいのではないか、と思う。反戦を観客に突きつけるのはいいのだが、ドキュメンタリー的にはややおおざっぱで、エンターテイメントにしては小難しい、この檄にも似たきまじめな映画に何人が触発されるのだろうか。
 「戦争論」的な面白さはあるけれど、アメリカの理想と現実を、もっと物語として作り込んで、織り込んでみせたなら、この映画はもっと価値のあるものになったのだろうと思う。それこそ、戦場へ行った2人の生徒をもっとクローズアップしても良かった気がするのだけれど。(★★★)