虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「うた魂♪」

toshi202008-04-06

監督:田中誠
脚本:栗原裕光/田中誠


 夏帆主演の合唱コメディ。


 北海道の女子高生萩野かすみは、自分の歌のうまさと自分の可愛さに酔いながら歌う、ナルシストな合唱部員。合唱部は全国大会出場経験もある名門で、彼女はそこでパートリーダーを務めている。
 だがある日、本命の男の子に、「恥ずかしい写真」を撮られ、校内新聞に掲載されたことで、彼女の中のプライドがずたずたにされ、歌う事への迷いが生まれ始める。合唱部での立場も危うくし始めていたその時、出会ったのはゴリ顔で不良ルックの高校生・権藤だった。


 合唱という題材にも関わらず、文化系スポ根にならずに、一人の少女の成長に焦点を当てたコメディになっているのがこの映画の白眉。
 夏帆演じるヒロインは自己中でナルシストという、現実にいたらかなり「嫌な女」なのだが、にもかかわらず愛らしさすら感じさせる辺り、夏帆のコメディエンヌとしての才能が開花したことを感じさせる。
 この手のジャンル特有の、群像劇によるドラマのグルーヴ感は希薄だが、「歌うこととはなにか」という命題を掘り下げることに成功している。そこにゴリ演じる老け顔高校生を説教役&ライバルに据えるなど、キャラ配置も巧み。ゴリはまんまゴリの顔で登場し、親父くさい、というより親父そのもののルックスとは裏腹に「尾崎豊を心から熱唱する」というメンタリティを持つギャップを見せつつ、夏帆に対する行きすぎた説教で、セクハラともとられかねない行為の数々をかます辺りが、大変楽しかったです。


 「歌に共感しなければ、観衆の心をつかむ歌は歌えない」という落としどころも非常にまっとうで、それは文章にも通じることなので、「まったくその通りだよ、ゴリ」と思わず首肯してしまった。
 クライマックスの合唱シーンも非常に楽しかったのだけれど、最後の最後に訪れる「奇跡」のシーンに関しては、ちょっとやり過ぎで「蛇足」の感否めず、「そこまでダメ押ししなくてもいいんじゃね?」と逆に醒めてしまったので、そこで、この映画に対する評価がガクっと下がってしまうのだが、歌うことの楽しさの根源をきちんと掘り下げて描いた佳作だと思いました。(★★★)