虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「チーム・バチスタの栄光」

toshi202008-02-16

監督:中村義洋
脚本:斉藤ひろし蒔田光治
原作:海堂尊


 ミステリというジャンルは、多くのものを網羅する。「人が死んでなぞがあればミステリ」というおおざっぱな意見もあるが、「人が死なないミステリ」だって存在する。要は、ミステリは人の業を題材にしているのであり、そこに常に「謎」がある。その広さはさまざまなジャンルを浸食している。SFというジャンルとの決定的な違いは、ある意味他ジャンルを浸食する柔軟性だと思う。


 そういう意味において言えば、この映画のあり方もミステリとして「アリ」ではあろう。日本を代表するバチスタ手術チームで起こる、不可解な連続「術死」。そこに何があるのかを解いて欲しい。という流れは、なるほどと首肯できる。主人公が、まったくの門外漢の女性であることで、医療について分からない観客に優しいし、医療チームキャラクターの捉え方もオリジナリティを感じさせる。まったくの他人事としてしか事件を捉えていなかった彼女が、人が死ぬ瞬間の恐ろしさに気づく流れは、非常に丁寧で感情移入出来た。


 ただ。この術死事件の裏に隠されていた真相と、それが解決する流れにはどうも首肯しがたいものがある。

 

 阿部寛演じる白鳥圭輔という厚生労働省の役人という「官憲」が介入してきて、しかも他人のプライベートにがんがん介入してくるという流れは、どうにも受付がたい。しかも、正義のヒーローづらして、民間病院の内部に踏み込んでくるというのは個人的に抵抗がある。しかも目的ってのが最後に明かされるんだけど、「げえええええ」と思いましたよ。結局エリート役人なんですな。しかもその行為が肯定的に描かれるのは、腑に落ちない。
 で、その「真犯人」ってのが、単なる「人でなし」みたいな描き方をされていて、その裏に隠されている悲しみとか思いとか、まるで感じられないオチに、「いくらなんでもそれはないんじゃないの」と思ったし、その「職能」についている方々に対する侮辱だとすら思いましたよ。彼は、その職能では「エキスパート」として描いておきながら、それに誇りを持てずに犯してしまう罪の重さは、一病院が「ごめんなさい」して済む問題でもないだろうよ。


 ミステリーとして人の業を描くならば、もっと「業」に対して真摯でなくてはならない気がする。ましてや命を預かる「医療」をリアルに描きながら、あえてその禁忌を犯す「大罪」を描くならば、なおさらそこに踏み込む陰影を深めるべきだと思った。決して面白くない映画ではないが、あえての★2つ。(★★)