虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「守護神」

toshi202007-03-04

原題:The Guardian
監督:アンドリュー・デイビス 脚本:ロン・L・ブリンカーホフ


 題材が湾岸警備隊の訓練校ということで、ハリウッド版「海猿」みたいなことを言われてるのを聞くと、かえって見る気がしなくなって(笑)、いままで無意識に見るのを敬遠してたのだけれど、なかなかどうして、いい映画だった。「海猿」に似ていると言えば似ているけど、あちらは若者同士の友情や恋愛が主だったが、こちらは古い世代から新しい世代への「使命」の継承がメインテーマだ。



 伝説的レスキュースイマー、ベン・ランドールは事故をきっかけに、かつて自分も在籍した、海難レスキュー隊員養成学校に講師としてやってくる。彼がこの学校で残した数々の記録は今も破られていない。訓練生との初顔合わせのとき、一人の青年が、その記録をすべて破ってみせる、と宣言する。それが彼とジェイク・フィシャーとの出会いであった。


 最近の映画ってなんかトリッキーになってきてる気がして、映画を見るのにも色々と相手の言うことを読み取ろうという意識を持つか、ひたすらバカになるか、という選択を迫られたりするのだけれど、この映画のいいところはですね、こう、物語がスーッと肌が水を吸い取るように理解できるくらい、丁寧な作品ということ。
 テーマ、題材、演出自体は非常にオーソドックスでありながら、変な力みがなく、押すべきところは押す、引くべきところは引く、という演出がきちんと出来ていて、変に暑苦しくない。ここで泣かせるぞ!とかここで笑わせるぞ!とかいうような大仰な演出がない分、地味に見えるけれど、では感情が揺さぶられないかと言われれば決してそんなことはない。
 なにより、脚本も演出も、湾岸警備隊の職務に対して、非常に敬意をもって誠実に紡がれているのがわかるのが、とにかく素晴らしい。


 妻に愛想尽かされるほどに任務一筋に生き、親友を失って、自分はなぜ生き残っているのか。生きる意味を見失いかけたときに、彼は、未来を託すべき若者に出会う。初めは敵意を持ち、彼の生意気な言いぐさに腹も立ったが、やがて彼自身の中にレスキュースイマーとしての素質を見出していく、
 一方の若者は、記録や勝ち負けを無意識に重視し、憎体的に優れていることを証明してみせても、伝説の男は自分を認めようとはしない。しかし、彼が自分を理解してくれるきっかけとなったのが、水泳選手でありながら、その未来を断ち、この訓練校に志願したきっかけの出来事だった。肉体的に優れていることも重要だが、もっとも必要なのは「人を救う理由」だと彼は知っていく。
 一時は彼に反発し衝突を繰り返した若者も、やがて彼を信頼、尊敬していくが、伝説の男はなぜ伝説となれたのか。その真の意味を若者が思い知るくだりがある。


 今まで、彼が伝説と成った理由を救助者の「数」のせいだと思われていた。噂では200人というものもあり、300人という者もいた。若者は「伝説の男」に聞く。あなたの救った人間は何人ですか。伝説の男は答える。「22人」と。「へー、悪くない」といいながらも、拍子抜けしたような顔をする若者に、伝説の男は続ける。


 「救えなかった数だ。救えた数は・・・・わからない。」


 救うのは彼にとっては当たり前だ。彼が忘れないのは、「救えなかった命」。だから彼は生きながらに「伝説」なのだ。このやりとりには、さすがに身震いした。


 上映時間が2時間20分とやや長丁場ながらも、王道な題材を下手な愁嘆場も作らずにきっちり見せきり、ラストでちゃんと感動させる。ストイックな生き様を貫き、それゆえに苦悩につきまとわれるケビン・コスナーに「使命に生きる男」の背中を見た。ハリウッド映画の底力を感じさせる秀作。(★★★★)