虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ドリームガールズ」

toshi202007-02-22

原題:Dreamgirls
監督・脚本:ビル・コンドン
公式サイト:http://www.dreamgirls-movie.jp/


 時は1962年。中古車販売業をやりながらローカルでレコードスタジオを経営するマネージャーのカーティス(ジェイミー・フォックス)は、とあるアマチュアコンテストに出ていた、エフィ(ジェニファー・ハドソン)がリードボーカルを勤める3人組のコーラスグループ「ドリーメッツ」のパワフルなステージを見て非常に気に入り、彼女たちを彼が抱えるレコード会社で一番のスター、ジェームズ・アーリー(エディ・マーフィ)のバックコーラスにスカウトする。
 彼女の兄でドリーメッツ付き作曲家だったC.C.が気に入られたことによりアーリーから信頼を得たカーティス。だが、白人優位のこの時代、
 アーリー、そして「ドリーメッツ」をメジャーにのし上がらせるために、彼は、二足のわらじの生活を捨て、マネージャー業に専念し、オリジナルレーベルのレコード会社を起ち上げる。アーリーをメジャーにするために手段を選ばないことを誓う。
 ジミー・アーリーを全国区の人気にしたカーティスは、いよいよ「ドリーメッツ」を一本立ちさせる機会を得る。名付けて「ドリームス」。だが、彼がリードボーカルに選んだのは歌唱力が抜群のエフィではなく、声量はやや劣るがルックスは抜群のディーナ(ビヨンセ・ノウルズ)だった・・・。



 80年代に一世を風靡した、60年代のモータウン音楽界を舞台にしたミュージカルの映画化、という。ダイアナ・ロスが所属していた「ザ・シューブリームス(スプリームス)」とベリー・ゴディーJr.の逸話が下敷きとのこと。
 今月の「映画秘宝」で長谷川町蔵氏が「当時の音楽業界がわからないと面白がれない」みたいなことを書いていて、てっきりとっつきにくい内容なのかと思っていたのだが、構図的にはわかりやすく当時のデフォルメした形で芸能界のバックステージを描いたもので、こういうのは時代を超えて女性観客の好物じゃねーの、と思う。
 「シカゴ」も手がけたビル・コンドンの脚本も駆け足ではありながらも決して説明不足ではない、スピーディな中にも力強さををもった構成力はさすが。キャスティングもアテ書きとしか思えないエディ・マーフィや、思いの丈をビヨンセのお株を奪う抜群の声量を披露するジェニファー・ハドソンに起用などは感服した。
 実話をベースにしているとはいっても、あくまでもフィクションなので、内幕や、成功とその裏にある挫折や苦悩を描きながらも、その現実をどぎつくさせないさじ加減でエンターテイメントとして落とし込んでいる手際が見事で、3人のギリギリキャラクターもきちんと感情移入しやすいなストーリーラインになっている。
 大きな夢を手に入れるために、彼女たちはそれぞれに、大きな何かを失っていくが、やがて、その喪失に向き合っていくことで、復活への道へと帰って行く、という筋立てなわけですが、それゆえに、前半で彼女たちをスターへと導くカーティスが後半、ネガティブな役回りになっている*1。けれど、俺は自分が男性ということもあって、カーティス目線でこの映画を追ってましたね。



 この映画の前半はどちらかというとカーティスの有能さと、スターを育てる楽しみ、というところが重点的に描かれていることもあって、どっちかっつーとローカルでくすぶりながらもなんとかスターを育成して、メジャー音楽業界に殴り込みをかける、という過程が痛快なんだけれども、有能であるがゆえに、彼女らを商品として見てしまう男の哀しみのようなものが、ある。ビジュアル重視で売る、という自分のセンスを頑なに信じるがゆえに、彼を心から愛していたエフィを切り捨て、ディーナに夢を託してしまう。
 彼は、ディーナに言うわけです。「君は夢の女」だと。彼は彼女の初主演作に「クレオパトラ」に据えようとするわけですが、しかし、それこそ、彼の抱えている彼女に対する「幻想」の象徴なわけです。
 ディーナはディーナでエフィへの劣等感や彼女から男を寝取ったという、自分を知っているわけです。私はクレオパトラなんかじゃなく、ある監督がオファーしてきた「初対面の男にフェラも厭わない淫乱な女」という役柄こそ、あたしにふさわしいと。
 だけど、その彼女が感じているリアルが、感情が、カーティスには見えない。「16歳のまま」の彼女のためなら、ジミーを見捨て、実力で復活への道を進み始めたエフィに、昔白人から受けた同じ仕打ちをすることも厭わない。でも、そんなこと、ディーナは望んでいない。そのことに、いつのまにか気付けなくなっていたがゆえに、かつての仲間に復讐される男の、愚かしさゆえの哀しみがじわじわとこみあげてました。



 偶像を育てる、ということ。そのことに取り憑かれた男。その男の、ひとつの時代の始まりから終わりまでを描ききった映画としてみると、大団円のはずのラストが、なんだか少しほろ苦くさえ、感じられる。


 夢を見たのは女たちだけじゃない。男だって夢を見たのだ。


 ・・・てな感じの俺みたいなひねた見方をしても楽しめる、奥行きのある脚本が見事な、王道ミュージカルの秀作でした。(★★★★)

*1:モータウン初期のスターでモータウンレコード副社長だったスモーキー・ロビンソンが映画を見てご立腹だとか。