「アタゴオルは猫の森」
監督;西久保瑞穂
3DCG技術が発達しても日本にCGを十全に使える演出家が、育つのはまだ先なのだろう。
デジタルフロンティア制作による、ますむらひろしの「原作」を叩き台にした全編CGによって作られた本作を見ていて思ったのは、演出の有り様がいまだ、3Dの見せ方に対応しきれていないのでは、ということだ。
技術が発達すればさまざまなエレメントを置くことが出来るから、いくらでも画面をリッチにすることは出来る。だが、それ故に語り手が「何を見せたいか」が重要になってくる。何を足すか、ではなく何を「引く」か、が実は重要なのだと思う。
これほどの画を生み出せるようになってなお、感情や物語世界の有り様を台詞で説明せねばならないというのは、ピクサーやドリームワークスの演出レベルとは、決定的な差があるように思う。
いってみれば、この作品はテレビゲームのデモレベルでしかない、ということだ。セルアニメの常識に囚われたコンテの切り方を無意識にしてしまっているがゆえに、この作品が3Dであることを強みに出来ていないのではないかと思う。そういう意味では、この作品は習作の域を出ていない。
絵的なボリュームは決して悪くないし、ここまでやれたことは次に繋がると思ったが、演出面がいささか単調に流れてしまうのが惜しい。陰鬱なトーンが支配した世界の中でも自分の欲望に忠実なヒデヨシ(山寺宏一)と、彼を父上と慕うヒデコ(本名:輝彦宮、小桜エツ子)の力強い掛け合いを聞いているだけでなんか幸せな気持ちになってしまったので、案外楽しめてしまったのだが、スクリーン上の「ゲームデモ」感を払拭することこそが、まずは肝要な気がした。日本においてCGアニメが発達するのはそれを越えてからだと思う。(★★★)