虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「サイレントヒル」

灰の降る街をーわわわー♪

原題:Silent Hill
監督:クリストフ・ガンズ 脚本:ロジャー・エイバリー 撮影:ダン・ローストセン



 これは、アタシの狂気のハナシ。



 彼女が、彼の地へと向かったのは娘・シャロンの異変が原因だった。

 愛らしい娘だった。だが、ある時から、時折異常な行動を見せ始めたのだ。娘がなにかに取り憑かれたように書く絵、夢遊病のように徘徊し、そして娘はその言葉を口走る。「サイレントヒル」。


 ローズ夫妻が、シャロンを引き取ったのは直感だった。孤児院に引き取られていた彼女を見た瞬間、それはまるで彼女を娘で引き取ることが運命のように感じたという。彼女は、腹を痛めた子のように彼女が自分の子のように思っている。
 しかし、そのことが、彼女を悪夢の町へと引きずり込むことになる。


 ヴァージニア州サイレントヒル。地下火災によって崩壊した町。だが、彼女が迷い込んだそこは、何かが違った。常に灰が降りしきる、白く煙った町。この世の物ではないような。その町。
 不気味で静かで、人影すらない。


 だが彼女は迷わずに決然と、町へと入り込んでいく。娘を救うために。




 うむううう。唸った。
 原作のゲームを知らないが、この物語で重要なのは、「そこ」へと迷い込み、深みへとはまっていく過程である。この映画は、シンプルかつ鮮やかにそれを獲得している。


 呪われた娘と、彼女に「魅入られた」母。その母親が娘の残像を求めていくという物語構造、サイレンがなると「呪い」の浸食が始まる世界観。世界そのものが悪意で構成され、そして道具立てとかっちりと作られた隔絶された「異界」にひとり残された、女が動き、真相を求めていくわけである。「娘」のために。
 なんて鮮やかな現代版「不思議の国のアリス」。出だしはまさに、ローズ・イン・サイレントヒル、である。


 キャラ造形もみごとで、特にローズとともに巻き込まれる女警官のキャラクターが実にすばらしい。決然としていながら、良心と勇気を、弱さを理解する心を持ち合わせたキャラクターであり、「現世」の警察がローズの捜索に乗り出すのも、彼女が鍵となっている。
 かように脚色が振るっているのであるが、撮影・演出もすばらしく、じわりじわりとした「嫌らしい」演出が映像に艶を感じさせるし、かっちりと作り込まれた世界で、登場人物たちが気持ちよく躍動するので目に楽しい。(そうこの映画は、「怖い」のではなく、「楽しい」のだ。)。おびえ演技も通り一片の絶叫演技ではなく、バリエーションをもたせているのもすばらしい。


 そして、夫であるショーン・ビーンのパートで、その町が<ここではないどこか>であることを強調した上で*1、この異界が、出来上がった真相が徐々に明らかになっていくのであるが、それがまた非情なまでに陰惨で、救われないハナシである。つまり、一番怖いのは「人間」であると。ゲームの世界観を依代にしながら、人間の悪意は底なしであることを、この映画はこれでもかと描く。浦沢直樹もびっくりの、見事な「悪意のあぶり出し」である。


 そして、この物語は「母」たちの物語であると告げる。


 とにかくシナリオがほぼ完璧*2に素晴らしいのだが、クライマックスで変にカタルシスを持たせる描写にしてしまったのは減点。ここで、クリストフ・ガンズが趣味に走るのを踏みとどまれば完璧だったのに。あそこで、漫画*3みたいにしちゃったのがなあ。あんな直接的に描かれると興醒めなんだけど。
 ともあれ、ゲームをもとにしながら、これほどのポテンシャルの作品に仕上げてきたことには、素直に敬意を持たざるを得ない。(★★★★☆)

*1:携帯電話の使い方が素晴らしい

*2:「死体の中の鍵」などの理不尽なパートはあるにせよ

*3:大友克洋を意識したとかしないとか。真っ赤なトマトになっちゃいな?