「レイヤー・ケーキ」
原題:Layer Cake
監督:マシュー・ヴォーン
吾輩は麻薬ディーラーである。名前はまだない。どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて我々のボスというものを見た。しかもあとで聞くとそれはヤクの元締めという人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。このボスというのは時々我々を捕えて煮て食うという話である。
しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。掌の上で少し落ちついてボスの顔を見たのがいわゆる階級社会(レイヤー・ケーキ)というものの見始であろう・・・。(XXXX著「吾輩はクサ屋である」より)
階級社会(レイヤー・ケーキ)とは裏社会のチンピラからいわゆる上層部までを回想に分かれたケーキに見立てた隠語、であるらしい。うまく付き合えば、甘いクリームが吸える。欲をかいてのめりこみすぎると、塗り込められる。ま、そんな感じであろうか。
主人公の吾輩さんは自らをルールにより律して、うまくやっていた。吾輩「ビジネスマン」やねんもーんとうそぶきながら裏家業にどっぷり手を染めて、だが、金は貯まったしそろそろ足をあらいたいなー、と思っていた。だが、世の中ケーキのように甘くないのよ、と言う話。
そのケーキには死体が詰まってる。
話的には足を洗おうとしてもなかなか洗えないどころかどんどん泥沼になっていく、というわりとありがちな話なんだけど(三池崇史が撮ったらどんな残虐絵巻になるんだという話である)吾輩はなんとか美味しく生きようという人間なので、どんなピンチになってもかなり器用に立ち回る。しかし、彼を待っているのは、その立ち回る器用さが、実は「レイヤー・ケーキ」の罠なのである。
抜け出したくても抜け出せない。だけどそれは魅惑的に甘く、それゆえに人はそこに群がる。
彼らを待つ罠と、そこに如何に対峙するか、という頭脳戦の果てに待つ結末は苦い。自分を律せるものだけがのし上がれる。しかし、そこにもまた死体がある。連なる因果に吾輩も捕らわれる。例外なく。
いずれにしても、甘くない話なのだが、クールに見えてしまうのがこの映画の傷かな。彼のケーキの中に埋まっている醜悪なものには綺麗に言及を避けている。。そういう意味でも、デコレーションケーキな題名は自虐にも思える。(★★★)