虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「M:i:III」

オレをキレさせたら大したモンですよ。

原題;Mission: Impossible III
監督・共同脚本:J.J.エイブラムズ
共同脚本:アレックス・カーツマン/ロベルト・オーチー
音楽:マイケル・ジアッキノ


 最凶の敵、だそうである。うん。まあ。そうかも。


 今度の敵は「でぶ」。キレかかったフィリップ・シーモア・ホフマンである。そら最凶である。


 映画が始まると最初に映るのがでぶ。傍らには口をテープでふさがれ、しばられている女性がおり、銃を突きつけている。しかもキレかかってる。態度だけ「キレてないっスよ」というポーズを作りながら。つーことはもう、でぶの怒りはギリギリだ。かなりおかんむりである。
 しかも怒っている相手は拘束されているイケメンのメリケンスパイ、権力の走狗・イーサン・ハントだ。大体この野郎、恋人といちゃいちゃしやがって。おでなんかなーおでなんかなー!!ああーぶっ殺してやる、てめーの大事なこの女からぶっ殺してやるともおおおお!!とルサンチマンは拡大再生産の一途をたどっている。
 ・・かどうかは定かではないが。
 どうも、イケメンスパイ、イーサン・ハントは、この「でぶ」に欲しいものを渡さない気でいると思いこまれている。この手のてぶが怒ると、怖い。なんせ怒りに火がつくとなにすっかわかんねっから。でぶは彼女に銃を突きつけ、怒号を上げながら、カウントダウンを始める。


 10、9、8・・・


 ハントも焦りで混乱してくる。彼の欲した物を渡したはずなのに、なんで怒ってんだこのデブ。しかし、刺激しちゃいけない。なんせ相手はフィリップ・シーモア・ホフマンなのだ。ホントにキレてんのかもしんないじゃん。あーもう、おれはどうすれば!


 3、2、1・・・



 どーすんの、どーすんの俺!




・・・てな感じでいきなり「キレかかった」フィリップ・シーモア・ホフマンでハッタリかましながら、物語は少し時間をさかのぼり、イーサン・ハントがどのようにしてこの「ギリギリデブ」と対峙するに至ったかを描いていく。




 今回のイーサン・ハントはベテランとして、組織から一定の責任を果たし、チームリーダーとして信頼を勝ち得ている。指導教官として、後継できる人材育成にも力を入れてきたが、彼は婚約者との穏やかな生活を求めて、引退を考えていた。だが、だからこそ彼を必要とする場面もある。婚約者とのパーティの最中であろうとも、組織はいつものように彼に指令を送る。
 その作戦は、女性エージェントの救出。彼女・リンジーはかつての教え子だった。


 見事な連携で、イーサンは彼女を救い出すが、彼女は脳に埋め込まれた爆弾によって死亡してしまう。彼女の中に若き日の自分を見ていたイーサンは、恋人との平穏な日々を一時保留にして、リンジーを殺した黒幕へと迫っていく。


 この映画の成立過程では、あまりプラスな話題が出てこなかったのであるが、結果としてはその紆余曲折が見事に実を結んだと思った。
 前任者たちとつい比較してしまう部分もあるのだが、j.j.エイブラハムズ自身の演出は、テレビ出身者らしい、こじんまりとしたアクション演出に終始してしまってはいる。映画的な絵、というよりは、テレビ的なアクションの撮り方をしてしまってる。だが、それを補って余りあるプロットによって、アクションが物語と有機的に結びつき、目が離せない。
 それに彼が持ち込んだプロットには三作目に至って、成熟を身につけたハントの姿がある。
 今回は、ヒーローとしてのイーサン・ハントではなく、一組織人としてのイーサン・ハントとしてきちんと落とし込んでいる辺りが特に見事。地味と感じる方もおられるかもしれないが、裏方と連携採りつつ、アクシデントにも対応していくプロとしての姿勢がきちんと描いているがゆえだ。
 彼はもう独断専行だけの男じゃない。仲間を信頼し、時に助け、時に背中を預ける。そして彼は、守るべき者のために、汗と血を流す。しかし、そのことが彼を窮地に追い込む皮肉までをも描き出すに至っては、なかなかに感心した。
 このプロットの出来映えゆえに、トム・クルーズも彼に虎の子のシリーズを預ける決断をしたに違いないのである。


 そして臨界点ギリギリに怒りを内包した「ギリギリでぶ」・フィリップ・シーモア・ホフマンが、すごい。怒るとなにすんのかわかんない、怒り蓄積型タイプの悪役ゆえの怖さ。大事な女性を、そんな敏感な地雷のような男に捕らえられてしまう状況は、、物語の緊張を5割増は上げてくる。


 まさにLIMIT OF LOVE。極限の愛は、極限のデブの手に委ねられたッ!!


 というわけで、イーサン・ハントの、IMFに存在することの葛藤と憂鬱を描いた、「スパイ大作戦」THE MOVIEなのである。(★★★★)