虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「初恋」

「いいこいいこ」「えへ♪」

監督;塙幸成 脚本:塙幸成、市川はるみ、鴨川哲郎
公式サイト:http://www.hatsu-koi.jp/


 宮崎あおいなんである。主演が。


 で、そんな彼女が、アウトローに流される女子高生、しかもそれが三億円事件の実行犯になる、なんて題材に挑む、なんて言われたらもう、「害虫」レベルの作品を期待してしまうわけでね。仏頂面でも笑顔でも可愛さをキープできる希有な女優に成長しつつある彼女のポテンシャルは、彼女と同世代の中でも図抜けていると思う。
 作り手はね、頑張ってると思うんですよ。なんつったって彼女が歩く姿はスクリーンに映える。60年代の町並みを再現し、細部にまで画づくりにこだわってみせるわけなんですがね。


 一言言わせてもらうとね。監督、頼むから演出真面目にやってくれと。


 宮崎あおいは、こんなもんじゃねーよ!
 ヒロインが、夜の新宿へとドロップアウトしていく中で出会う、仲間たちとの青春の始まりと終わりをこの映画は映画描いているんだけど、そのお仲間たちの演技が壊滅的。会話シーンになると見事に停滞。台詞をぼそぼそーっとしゃべんのこいつら。全然聞き取れやしない。やる気のない学芸会か。と見ててこれほどイライラしたことはない。どこの素人だこいつら、と思ったら、小出恵介小嶺麗奈に似てる・・・。つか本人たちじゃねーか。


 えー。つまり、壊滅的に演出がヘボい。


 この映画は、三億円事件が青春の鬱屈の先にあった、というフィクションなんだが、その土台がね、ガタガタ。
 2006年という時代に60年代を描く時点で、追憶かファンタジーとして語るしかあり得ない。追憶を抑制を持って描こうというのなら、脚本に陳腐なセリフや演出はやめたほうがいい。
 アングラ舞台を見ている最中にキャラ紹介、とかいうよくわかんないことするし、そのわりに演出は相変わらずボソボソーっとしゃべりながら、そこではき出されるセリフがものごっつい陳腐で説明的で悶える。特に事後に小嶺麗奈が「子供欲しくない?あたし実家でお見合いしなきゃいけなくってさー、籍入れなくていいからさー」とかいう会話のものごっついあり得なさ。なんだそら。それを拒否して男曰く「結婚したら不倫しよーな」


 くわー!蹴り入れたい。このセリフをかっこいいと思ってる脚本家に蹴り入れたい。*1


 こんなヘボヘボな青春群像の末に一人の「頭いい」男(大臣の息子って設定)が実行犯に選ぶのがじょしこーせー=ヒロイン。
 理由。


・女である。
・車が無免許で運転が出来る。
・それって意外じゃん。


 ・・・そ・ん・だ・け・かい!何度かの訓練の末に実行。あっさり成功。しかもものごっつい嘘くさい・・・。説得力なし。三億円事件ってあんなんだったわけ?それで観客に納得しろと?おままごとみたいな初恋が、実行犯の動機だったってのはまあいいよ。だけど、そこから三億円事件という計画を実行に移すリアリティーはかなり不足している。そこに説得力を持たせるのがフィクションの力だろーが!


 最後に「心の傷に時効はないから」とか宮崎あおいに独白させるんだけどさ、そんなのモノローグじゃなくて演出で「追体験」させるのが映画じゃねーの?「三丁目の夕日」のような「追体験アトラクション」でもなく、「パッチギ!」のような行き場のないエネルギーが暴走するわけでもない、正調青春群像という真っ向勝負な題材における、脚本の不出来とその欠点を増幅させる演出力の圧倒的な不足が、この映画を見た後の奇妙なやるせなさの原因だと思う。(★★)
 

*1:他にもいくつかあるんだが割愛