「インサイド・マン」
原題:Inside Man
監督:スパイク・リー
「俺は完全犯罪をやった」という男が冒頭に現れる。
その男の言葉に嘘はなかった。
事件は突然始まる。警察は男の一挙手一投足に翻弄され、さらにそこに第三者がかき回す。それでも男は計画をクールに実行する。ちょーかっこいい。
というわけで。完全犯罪の映画である。錚々たるキャストが、完璧な段取りされた銀行人質事件に際し、互いの信頼の中で行われるプロフェッショナルなやりとり、心理駆け引きの面白さ。
いい映画である。面白いですよ。一応。隅々までめくばせされた丁寧な映画。スパイク・リーの娯楽映画の方向で振り切れるとかくも面白くなるのか、とも思ったんだけどさ。
でも、俺、なーんかこう。いまひとつ興奮できなかったのは、「してやったりひゃっほーい」と喜ぶような類の映画ではなかったからだ。人質たちに1人の死傷者も出ず、金庫から1セントも盗まれない完全犯罪。行われるべくして行われ、大きな障害もなく遂行された事件。そこが俺の最大の不満なのだった。俺自身の価値観の問題で映画の出来とは関係ないのだが。理不尽ですまん。
完全試合というのは偉大な記録だと思うが、実際行われてしまうとなんかつまんないと思う。この映画に対する俺が感じてる不満ってのは、この映画が「完全試合」の過程を丁寧に描いた映画だからで、俺は「あーあ完全試合やっちゃった」と心の中で嘆息する。
うまくいかないからこそ、完全犯罪を目指す映画は映画になり得ると思う俺なのだった。
トリック自体は、割と古典的かつ、比較的現実的なもの。つーか、ある程度予想の範囲内だったのも、この映画を「こらすげー傑作じゃー!」と思えなかった原因かもしれない。(★★★)