虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「シリアナ」

toshi202006-03-11

監督・脚本:スティーブン・ギャガン 原作:ロバート・ベア
原題:Syriana
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/syriana/


 見始めて数分。自分の甘さを思い知った。


 ここまで観客を突き放した映画とは思ってなかった。つーか、開幕して1時間以上、物語がさっぱり見えないんだもの。


 原作は元CIA諜報員のノンフィクション。映画はそれを叩き台にしたフィクションである。
 舞台は中東の某国。そしてアメリカ。
 石油会社からクビを切られて路頭に迷う青年、長年の任務を終えて引退を考えているところを新たな任務にかり出されるCIA諜報員、親米路線からの脱却を図る改革派の王子と彼に近づくエネルギー・アナリスト、石油利権を取り損ねて合併させられそうになってる会社から、相手先の弱みを握るように依頼される野心家の弁護士。
 基本線となるそれらの登場人物による4つの物語が同時進行しつつ、そこに某国の王族やらCIAやら大企業などの思惑も絡み合い、かなりアクティブに物語が展開するんだけど、とにかく進行スピードが早い。ひとつひとつのシーンの情報量が膨大の割に未整理なので、こちらがそれを理解し終える前に次のシーンへ飛んでいる。こちらは人物とストーリー上必要となる情報を処理するだけで手一杯。黒板に延々と書き続けるダメ先生の授業で必死にノートを取っているような気分になってくる。そんな状態が1時間半も続くのだ。苦行である
 それでもなんとか耐えて物語を追ってると、終盤になって、それぞれの物語の全体像が見えてきて面白くなってくるんだけれど、それまでが長い。とにかく長い。

 つーか、スティーブン・ギャガン、脚本家としてはともかく、監督としては無能じゃねーのか?隠し撮りのように見せる演出自体は悪くないけど、その会話だけぽん、と出して、その会話にどのような意味があるのかをきちんと提示しないんだよな。ただでさえ複雑な話だってのに、まともにストーリーを観客が租借する暇さえ与えないのは単なる愚行だぞ。ひとつひとつのシーンに意図があるのは分かる。わかるんだが、普通に物語れば理解できるはずのシーンすらぽろぽろこぼれてっちゃうんじゃ意味ない。


 どうも、映画としての意図と、脚本の意図にブレが出ている気がしてならない。脚本自体の志は高い。それなのに、演出は「現実っぽさ」を出そうという欲が見える。そんなもんいらないのだ。ただ、きちんとストレートにエンターテイメントとして観客に投げ込めばこそ、この主題がずどんと来るんじゃないか。いちいち持って回ったような台詞を登場人物に言わせただけで悦に入られても困る。その会話がどのようなシチュエーションで交わされた会話なのかを提示しなければ伝わらない。それを怠っては肝心の物語が機能しない。
 ソダバーグ印の映画らしい映画と言えばそうなんだが、監督としての手腕は一段も二段も落ちとる気がする。 この映画の世に問おうとする姿勢は実に前のめりで嫌いではないが、この映画が掲げる主題は、興味を持ってない人にまで伝わらなければ意味がないのだ。それを、自らすすんで間口を狭くしてどうするんだ。


 大人の映画という評価も分からぬ訳ではない。だが、俺にはこの映画のわかりにくさは、どうも物語る側の能力の欠如としか思えなかった。残念。(★★)


追記:個人的にはアメリカのキャストよりも、中東側のキャストの演技がやけに迫真なのでそちらに驚いた。いっそ、王子・ナシームの視点から描けばよりドラマチックになった感があるな。そういうわけにもいかんのだろうけど。
追記2:あと、この映画ってどこかDVDで見ることを前提に作られた感じもしないではない。以前、ソダバーグは「映画はDVDで十分」みたいな発言していたような報道があったけど、そういう意味では、ソダバーグの「思想」が如実に反映されたのが本作なのかも。