虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

江分利満氏の優雅な生活(1963年製作) ★★★★

toshi202005-05-28



 山口瞳氏の直木賞受賞作を映画化した作品。脚色は井出俊郎氏(「若い娘たち」脚色も担当)。


 既に歴史的評価が確立した本作。
 だがそれを抜きにしても、すごく面白い。改めて見ても古びないこの面白さはどうだ。小林桂樹のモノローグの語りの見事さ、平凡であるがゆえの哀しみ、おかしみを見事に体現する演技の凄さ。野暮天が背広を着て歩いてるような戦中派サラリーマン江分利氏の生活とその半生を、手練手管を駆使して活劇のように楽しませる岡本監督独特のタッチは、もはやアルチザンとして完成されてる。軽妙洒脱な語り口とはこういうことを言うのだ。
 若い人に説明するなれば、サラリーマン版「下妻物語」(正確には「下妻」がロリータ娘版「江分利満氏-」なんだけど。)。なんせこの時すでにアニメまで駆使しているのだ、この映画ってば。


 この映画、笑える場面も多いのだけれど、時折哀しい話が混じる。母親の葬式で今まで泣かなかった江分利氏が、一人遅い夕食でお茶漬け食べていて、実弟に電球が切れかかっていると言われたところで、初めて泣き出すときの小林桂樹の演技は、哀しさとみっともなさがないまぜとなって、実に印象深い名場面だと思う。


 この映画が評価されているのは、クライマックスの戦中派の思いを延々と同僚に絡んで聴かせるくだりなのかもしれない。直木賞まで受賞し祝いの席を設けられたまでは良かったが、ここまで粋に語り倒していた江分利氏は、延々と堂々巡りの野暮語りをし始める。しょせん俺らは野暮天なのさ、という屈折した思いを激白する様のねちっこさ。これこそが、脚色の井出氏や喜八監督の目論見だろうし、それは当たっていると思うのだけど、今見るとやはりくどい。そこがこの映画の玉に瑕な部分であろうか。しかし、それこそが江分利満氏なのである。


 野暮だろうが何だろうが、この映画が今見ても面白い、その古びない強さは、この映画が類い希なる傑作であることを示していると思う。つーか、サラリーマンなんて、今も昔も大して変わらないってことなんだろうな、と嘆息するのであります。


P.S. 我が愛しの新珠三千代様が江分利夫人になってた。うううううらやましい。つーか萌え。←言うな。