虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

髪切りの亭主

toshi202005-03-14


 床屋稼業は江戸時代から庶民の憩いの場などと申します。今は美容院、まあ、へあーさろんなどとも申しますか、そういった小洒落た横文字でありもしない高級感を出そうとしておりますが、床屋もへあーさろんも同じ、髪切りでございますな。
 そんなわけで、庶民にとっての床屋ともなれば床屋も庶民でございます。ですが、髪を切るのは庶民だけではございません。お偉い役人も、大金持ちも、総理大臣でも、まあ、髪切りのお世話になるわけです。
 庶民の客がもしも大臣、大統領、なんてことになったら、まあ大変でございましょう。というわけで、今宵はそんな話を一席。


 …てなわけで。渋谷で「大統領の理髪師」を見てきました。


 今は韓流などと騒がれておりますが、俺が思うにあの今の韓国の勢いは、長い抑圧を経た庶民が持つ勢いの差が日本文化との熱さの差になっている気がします。人も国も、高く飛翔するためには長き抑圧の時代を経なければならない。解放に次ぐ解放によって、すっかり疲弊してしまったのが今の日本だって気がします。それがいいか悪いかなどとは申しませんが、そこが日本と韓国のエネルギーとの差なのだと認識してます。
 その抑圧の時代を描いた韓国映画には傑作が多いですな。「シルミド」しかり「殺人の追憶」しかり。「大統領の理髪師」は60-70年代の軍事政権時代を軽やかに描いた、韓国でも珍しい喜劇なわけです。


 大統領に刃物を向けて許される職業。それこそが大統領の髪切りでございますな。一庶民であるにも関わらずそのような大役を受け、政治の思惑によって翻弄される親父を、俺がいま最も好きな韓国男優、ソン・ガンホが演じきるわけです。演出こそやや野暮ったいですが、当時の監視体制下を下痢騒ぎとして描いてしまうあたりのセンスは嫌いじゃございません。


 あの時代の韓国親父を、当時の時代状況を踏まえながらペーソス溢れる喜劇として仕上げた、なかなか粋な一席でございました。