「もらとりあむタマ子」
「お前はいつ動くんだよ。」そう問う父。娘は少し間を置いた後、言い放つ一言。
未決であること。それは最高の愉悦である。
23歳。某大学卒業後、無職。実家暮らし。就職活動も仕事もしてる気配がない。喰って寝て、漫画とゲームに没頭する。注意されたら逆ギレする。そんな日々を過ごすタマ子(前田敦子)。
一方妻と別れ、長女は嫁に行き、そんなダメな次女・タマ子と、二人暮らし。スポーツ店を経営し、家事もこなし、その上そんな娘に世話を焼きながら、まともに説教できない父親(康すおん)。そんな二人の1年を描く。
こんなダメヒロイン・タマ子を演じる前田敦子。 最高。
ダメ男映画のエキスパート、山下敦弘監督が前田敦子を迎えて描く、本意気のダメ女映画。山下監督の前作「苦役列車」で、ダメな主人公に惚れられる「そこそこ可愛い子」という、リアルな等身大「フツカワ(普通に可愛い)」ヒロインという、新境地を開拓した前田敦子が、「ダメカワ(ダメで可愛い)」女性を演じている。これがねえ。超かわいい。
仕事も彼氏も友達も、なにもない。家事もバイトもしない。そんな「人生の猶予期間」を満喫する女・タマ子をこれ以上無く魅力的に演じている。
秋。冬。春。夏。そんな季節の流れの中で、本当に何もない。日々。なにか行動起こしても、それはものすごくしょうもなく、突拍子もない「妄想」的なたぐいである。
そんなタマ子の生活にさざ波が起こる。その「さざ波」ってのが「やもめな父親が再婚するかもしれない」というもので、つまり「今の生活、終わっちゃうかも」という自分本位な不安と、自分を説教できない、けれど決して嫌いではない父親の行く末のために、相手の様子をぶきっちょに探りに行くタマ子の姿が最高に可愛く、また、父親がこんなタマ子と離れられない一端も見えてくる。
このままではいけない。そんなことはわかってる。だけど。
誰かに背中を押して欲しいと心の奥底では思う自分も、このなにもない動かない日々が続けばいいと願う自分もいて。そんな(しょーもない)せめぎ合いの中で父を思う娘。
そんな「未決定な季節」を生きるタマ子と、娘から離れられない父親の心の揺れをも繊細に描く、山下敦弘監督×向井康介脚本ゴールデンコンビの、最高に愛しいダメ女映画の秀作である。(★★★★)
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