虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「宇宙兄弟」

監督:森義隆
原作:小山宙哉
脚本:大森美香


 「モーニング」で現在も連載中の、人気コミックスの映画化。原作を10巻まで読んでから鑑賞。


 意外と言ってはなんですが、面白かったです。


 以前、アニメ「プラネテス」について全話感想を書いていたことがあるのですが、「プラネテス」はすでに一部の人類が「月」に人工拠点をおいて生活を始め、地球外でも企業が進出して、労働が始まっている2070年代を舞台にしていました。「宇宙兄弟」の舞台は2025年。しかも、その時のロケットの打ち上げ目的が「月に人工拠点を作る」というもので、こうしてみると、「プラネテス」前史のようであります。
 「プラネテス」が描いていたのは、「宇宙」に出たとしても人類はそう簡単に変わりはしない、宇宙はニンゲンに対して酷薄であり、歴史上繰り返されてきた同じような問題で苦しんでいるという、ある種の「諦観」に根ざした世界観の物語なのですが、「宇宙兄弟」はあえてそういう視点を巧妙に排除していて、とにかく「子供時代の宇宙への憧れ」が、ドラマを転がす根底にあります。


 原作も映画も、宇宙飛行士になった弟を持つ、30過ぎたおっさんこと六太(ムッタ)が、職を失ったのを機に、ひょんなことから宇宙飛行士を目指す試験を受けることになる物語であり、原作では様々な登場人物がそれぞれの理由で宇宙を目指す、もしくは関わる様子が描かれるのですが、大森美香は原作の枝葉となる登場人物やエピソードをかなり整理して、メインキャラである兄弟の「子供時代の二人の宇宙への憧れ」に焦点を絞って、すべての現実的な障壁を超える力は、子供時代に培った「心」にある、というドラマ構成をしているのが印象的です。
 見たこともないところへ行きたい。そういう、「未知なるものへの憧れ」を取り戻したおっさんが、七転八倒しながらも夢へと走り出す。その先を走る弟を見守りながら、その背中を追いかけて。


 夢を追いかけ、困難な状況であっても、例え死ぬ直前まで「生きることを諦めない」兄弟が最後に見る風景へと至る物語を、若々しくも力強い筆致で描いて見せた力作だと思いました。人気作だけに、原作ファンはいろいろ文句もあるようですが、俺は好きです。(★★★★)