虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「カラフル」

toshi202010-09-20

監督: 原恵一
原作: 森絵都
脚本: 丸尾みほ


 「「バラ色のキャンパスライフ」など存在せんのだ。なぜなら世の中はバラ色ではない。実に雑多な色をしているからねえ。」(樋口 清太郎 アニメ「四畳半神話大系」より)


 映画「クレヨンしんちゃん」シリーズが輩出した希有な才能、原恵一の新作を遅ればせながら見た。


 その才能は認めつつ、この映画のやっていることは「すごい」と思いつつ、しかし見終わってみての感想を問われれば「ううーん」と考え込んでしまう。実を言うと、「良くできている」アニメーションではあるけど、「面白くはない」というのが率直な感想の作品になっていた。
 実は、前作「河童のクウと夏休み」*1を見ていて、危惧していたことが、現実になりつつあることに、ちょっとがっかりしたというのが本音だ。


 物語として描かれるのは、生前の記憶を失った「選ばれた魂」である「自分」が、冴えない中学生・真の身体に「転生」し、真が抱える「現実」に向き合いながら生活する中で、「自分」が何者であるかに気付いていく、という話。
 キャラの作画はデフォルメよりも「リアル」であることが重要視され、キャラの演出も、リアルな演技を追及している。背景も写実に書き込まれ、株式会社サンライズで制作されたことで、より原恵一の意図は徹底され、実写と見まごうばかりの「リアル」なアニメーション映画となった。


 だが。その原恵一の意図が十全に反映された本作を見ていて思ったのは、「これ、アニメーションである必要、なくね?」という「疑問」だった。その疑問はエンディングまで決して解消されることはなかった。
 前作は「河童と暮らす」という「大嘘」が物語の前提としてありながら、それをリアルに描ききるからこそ、アニメーションであることの意義があった。
 だが、本作が描くのは、NHKの「中学生日記」が取り上げそうな「オトナたちは気付かない子供達の現実とそこからの脱却」という、非常に地味なテーマであり、そして物語の落としどころは、友達とコンビニで肉まん分け合ったり、一緒に今は亡き玉電の跡をたどって過去に思いを馳せたり、そういう、ごくごく当たり前のことこそ重要なのだ、という話で、そういう話自体を否定する気はないけれど。
 では、それをここまで「リアルなアニメーション」にして・・・・なにが面白いの?と俺は思ってしまう。


 面白い必要あるの?と問う人もいるかもしれないけど、それは・・・「ある」と思う。だって金払って見てる「娯楽映画」なのだし。


 この映画、女子中学生の援助交際とか、母ちゃんが不倫してるだとか、そういう女性の「性」やら中学生の「性欲」などについても踏み込んで描いてはいるのだけど、原恵一の硬質さは、女性のリアルな性の話が絡むと変に生臭い上に色気を感じないので、見ている方は「エロ慣れしていない人のエロ話」を聞かされたような、変な気まずさがただようのよね。
 これ実写映画だったら、もうすこし普通に見れたと思うのだけど、こういうリアルアニメで母ちゃんの不倫してた過去とか、淡い憧憬を抱いた女の子が物欲のために中年男性とセックスしまくってる現実だとか、主人公がいたずらに見舞いに来たブスな女子の同級生を押し倒してみたりだとか、そういう生々しい話を描かれても、変に生臭いカンジにしかならない。それがもう見ている間、気まずい感が出てしまって、どうしようもなかった。
 なによりこの映画、全体として妙に説教臭い。最後に天使が言う台詞なんかまさに、「メッセージのダメ押し」で「そこまで言わなきゃいかんもんか」とも思ったし。


 ここまで地味でリアルで説教めいた話なら、むしろぐちゃぐちゃにデフォルメすりゃあ良かったのに、と思った。
 同じく映画『クレヨンしんちゃん」シリーズから輩出された才能で、原監督の盟友・湯浅政明が監督した傑作テレビシリーズ「四畳半神話大系」だって、冴えない日常を生きる大学生「私」の話だったが、あちらはリアルからはほど遠いデフォルメ演出でありながら、「私」の「現実」と「理想の大学生活」のギャップからの焦燥が胸に痛いほど伝わってきたもの。
 現実を描きながら、アニメーションであることの意義をこころからカンジさせる。そこを両立させてこそ、物語の意図は明確に伝わる。原監督は決して手を抜いてないし、才能を絞りきるような本気の球を投げているのも解るけれど、だからこそ、見ていて感じた「違和感」という名のもやもやは見終わるまで消える事はなかったのだと思う。このアニメは、アニメーションである必然性、という根本的なところをつかみ損ねているように、僕には思えたのです。(★★★)

*1:「河童のクウと夏休み」感想:http://d.hatena.ne.jp/toshi20/20070728#p1