虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ヤング@ハート」

toshi202008-12-11

原題:Young@Heart
監督:スティーブン・ウォーカー


「オラ、わくわくしてきたぞ!」鳥山明ドラゴンボール」より)


 わくわくが止まらない人生。そういう人生ってあんだな、という驚きを感じさせてくれる人は、やっぱり魅力的なんだな、と思う。

 今年、驚くべきニュースとして、瀬戸内寂聴さんが「ケータイ小説」を書いて、それが人気を博し、出版されたということであった。
 これはかっこいいよ。どんな文芸評論家だって「ケータイ小説」を誉めませんよ。でもそこに「わくわく」があるのならそこへいく、という行動力に、評論なんてものはかなわないんですよね。
 で、ラジオなんかで、たまに瀬戸内寂聴さんの話を聞く機会があるんだけど、やっぱ面白いもんね、話が。魂が若い感じがする。下手すると、若い人間よりもずっと。
 人の心の若さとは、体ではなく魂の問題なのかもしれない、と思い知らされたのがこの映画である。


 未知なるものを求め続けるこころ。ワクワクするこころを持つこと。 


 俺は正直言って、音楽の素養がない。特に洋楽の違いがよくわからない。語れない。ついてけない。そんな俺。俺がいて。正直、歌謡曲聞いて安心するタイプの人間ですよ。新しい歌も聴くけれど、「これは俺のための曲だ!」とは思わずに「最近の若い子ってこういうの好きなのね」って、完全におばさん目線ですよ。そういうおっさんことわたくしは、やはり音楽的に言えば、かなり下層の人間だと思うデスよ。
 俺は音楽的には完全な老人なのだ。俺はこの映画を見て、そう思いましたね。


 米・マサチューセッツにある「ヤング@ハート」という老人たちによるコーラスグループは、平均年齢80歳。にも関わらず、パンクからR&Bまで歌ってしまうという歌い手集団。チケットは即日売り切れ。ヨーロッパツアーを敢行して大成功を収めてしまったというから驚く。
 そんな驚異の若いハートを持った老人たちの、ミラクルな記録。彼らの7週間を追う中で見える彼らの生き様を、若いイギリスのドキュメンタリー作家が追う。


 彼らは年齢が年齢なので、常に棺桶に片足つっこんだ老人たちで、常にここが悪い、ここが痛い、という具合の老人たちである。だが、彼らは常に新しい楽曲に挑戦しつづけている。
 彼らが好む音楽はクラシックやオペラ。「ヤング@ハート」で扱うものとは水と油である。にも関わらず彼らは、情熱を持って取り組むわけ。
 この映画を撮ってる間に、メンバーの死に直面するんだけれども、そのメンバーですら、最後まで「歌いたい」という情熱を持ち続けていく。かっこいい。かっこいい。かっこいい。彼らは、老人で有る前に、優れた歌い手なのだと思い知らされる。


 死が近づいてたとしても。それでも最後まで「わくわく」をやめずに死んでいく。そんな彼らの生き様は、はっきり言えば、好きなモノをただ続けている老人、という若い人の考える老人の固定概念とは無縁である。だから、もうこの映画を見終えるころには、ただただ、人間としてリスペクトである。
 メンバーの死に直面する機会が多い分、彼らは「空元気も元気」という「歌の効用」を知っていて、その人の死を知っても彼らは決まっていた舞台に立って一生懸命歌う。歌に生かされ、歌に救われ、歌に死んでいく。
 某音楽ストアのキャッチコピーではない、真の「No Music,No Life」を見せつけられた思いである。

 価値観の違いの檻すら越えて。彼らは、老いた体を越えていく。その体現にただただ拍手を送りたくなる。そんなドキュメンタリー映画だった。素晴らしい。(★★★★)