虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ストレンヂア/無皇刃譚」

toshi202007-10-03

監督:安藤真裕
脚本:高山文彦



 訓練された犬とともに生活し、旅を続ける孤児、そして「偶然」彼と出会いやとわれた、刀を封じている奇妙な若き浪人。彼らが向かうのはとある小国の禅寺。そこには、少年を明国で助けた僧が、彼を保護してくれるはずであった。だが、その小国には、明国からやってきた武装集団が、とある目的で訪れ、少年の行方を追っていたのだった。
 こうして一人の少年を巡り、多くの人間の思惑が入り乱れつつ、小さな国を揺るがしていく、波乱のドラマが幕を開けるのであった。べべべん。



 「鋼の錬金術師」を制作したことで一躍名を馳せた実力派スタジオ、ボンズがオリジナルで劇場用アニメに殴り込みをかけた、真っ向勝負作だと思った。手垢のついた題材であろうとも、アニメならではのアクションであえてそこに「斬り込もう」とする意欲は、大変すばらしいと思う。オリジナルでここまで真正面に「本格娯楽映画」を志向したアニメ映画を久々に見た感もあり、それだけでも非常に打たれるものがある。
 主演の2人にTOKIO長瀬智也とジャニーズjr.の知念侑李を配しつつ、ボンズ人脈?で山寺宏一大塚明夫竹中直人坂本真綾!などなど実力派声優陣をがんがん投入して脇をガッチリ固める、という陣容はまさにボンズの気合の現れと思う。



 人物の設定や世界観の作り方も、なかなかきっちり作りこんであって、きちんと民衆の生活観とか、社会の在りようみたいなものが、きちんと「画」で見せている辺りもかなり好感触。なんか役の名前をしらんような人のよさそうな農民のおっちゃんがひょこひょこ出てきて、主人公と会話をしてから街へ出て行くんだけれども、農作物がうれなくて「あーうー」ってなってるところに、「主人公2人」を探している旨の高札が立っていて、あっさり彼らを売ろうとする、みたいな話があるんだけど、その裏切りが「あー気持ちわかるわかる」みたいに結構憎めないように描けている場面などは、非常に目線が優しく、結構感心する。


 アクション部分で面白かったのは戦争描写で、「戦国時代」の思考法に近い、弓>槍>刀、という風に、弓矢や槍の重要性が強調されたりするところ。弓から戦闘に入ったり、刀が一番「不利」な武器として描かれている辺りは、「おお」と思った。アクションに定評のあるアニメーターとして名を馳せる安藤監督らしい、こだわりを感じた。
 あと、ボンズらしい演出としては「ハガレン」のOPなどでよく多用するぶれながらも立体的にアクションを追うカメラワークを効果的に多用していて、それが面白い効果になってたし、オリジナリティも付与できているように感じた。開幕のアクションなんかは非常に洗練されていて、すばらしかったな。


 しかし、気合が空回りしてるところも散見されたのが、本作の弱点で、脇キャラのエピソードを挿入することで、世界観をふくらませようとするのだけれど、それがいまひとつ群像劇としてきちんと絡み合うことがなく、踏み込みも中途半端なので、無駄に散漫な印象を与えてしまうところがね、ほんとに惜しい。痛快娯楽活劇をめざすなら、もっとシンプルにメインキャラの葛藤のドラマを掘り下げるべきだったし、群像劇ならば、クライマックスがそれぞれのドラマの終着点となるように持っていくべきだったのだが、踏み込め切れなかった感はあった。


 それでも俺がこの映画は本当に好ましいのは、娯楽映画、しかも時代劇をアニメーションで直球勝負した心意気と、それを裏付ける淀みない高いレベルを維持する作画の力を存分に堪能したからで、ボンズのスタジオとしての勢いと志は、十分に感じた。残念ながらお世辞にも秀作、と言えないが、その気合の一太刀が、見た人々に通じたことを、切に祈らずにはいられない愛すべき佳作。なので、星半個追加(★★★☆)