虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「サイドカーに犬」

toshi202007-07-21

監督:根岸吉太郎


 えー江戸時代、飯盛女、という職業があったそうですな。昼は、今で言う仲居さんのような役割を担いながら、夜はごにょごにょ…を売っていたそうな。ま、それはさておき。


 母がいなくなった。そんなわたしのうちに、飯を炊く女がやってきた。そんな夏。
 ・・・を思い出す「わたし」。OL生活につまづきを感じ、弟は結婚し、人生は曲がり角にさしかかり、いささか落ち込む。その合間の数少ない有給休暇。釣り堀で出会った小学生と話すうち、「わたし」は、あの20年前の夏を回想する。



 そんな出だしで、俺とこの映画はいきなり心すれ違った。あれ?みたいな。予告編見たときはてっきり現代の話かと思ってたら、いきなり暗い顔した女(ミムラ)が出てくるんだもん。なんでそう思いこんでいたのか、その時はわかんなかったけれど。しかも、現代の描写があまりに陳腐でびっくりする上に、妙に長い。この「わたし」の私小説的な語りにはあまり共感できないのであった。
 「雪に願うこと」を見たときも思ったけど、根岸監督って予告編では名匠扱いになってる割には、正直あまり現代人描写の上手い監督じゃないよなあ。この出だしはちと、痛い。正直「いらねえ」と思った。原作どおりなのかもしれないが、物語の共感の幅をいきなり狭めてどうすんだ。いきなり20年前、の本編でいいのではないか。
 子供目線からみた気っぷのいい「愛人」のヨーコさんと小学生の一夏の交流、という部分は面白いのだけれど、現代目線からのナレーションが絡むと、どうも居心地が悪くなる。子供目線で生々しさをぎりぎりのところで回避できているのに、大人の「わたし」の目線はいらんだろう。言わずもがな、のことしか言わないし。


 それでも、気っぷのいい女を、シングルマザーになった竹内結子に演じさせる、という目論見はなるほど、なかなか当を得ている。愛人なのに変なスレが少なく、朗らかに笑う演技もなかなか堂に入っていて、子供から見て気持ちのいい女っぷりが、うまく出ていたと思う。
 その女が惚れてる男(小学生の父)を演じるのが古田新太なんだけど、コワモテなのに人が良く、不安定で怪しい商売に手を出しかけている、というダメっぷりが、ギャップ萌えの効果をもたらしてるらしい、というあたりの描写はなるほど、面白いな、と思った。いまでいう「だめんず」ですかね。


 ただなあ・・・。どうしても首をかしげてしまうのは、俺、「わたし」こと薫たんとほぼ、同世代なんだけど、あまりノスタルジーは喚起されなかったってことで。なんで予告編で「現代劇」と思いこんでいたかの核心でもあるんだけど、この映画、風俗的には80年代を基調としながら、懐かしい感じはあまりしないんである。
 たぶん、竹内結子から「あの頃の女性」の感じがあまりしないからだと思う。彼女のファッションセンスはあまりに現代的に、垢抜けすぎてる。「あの頃」に感じるかっこよさと「今」感じるかっこよさって、多かれ少なかれズレがあるはずなんだけれど、彼女のかっこよさは明らかに「今」のかっこよさですよね。眉細いし。


 しかし、ヨーコさんを演じる竹内結子の魅力は「今」な感じにあると言ってもいい。ならばいっそ現代劇としてまとめた方が、素直に心に染みる秀作になったかもしれない、とちょっと思った。(★★★)