虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ラブソングができるまで」

toshi202007-05-02

原題:Music and Lyrics
監督:マーク・ローレンス



 主人公・アレックスは80年代のポップスターだったが、今は懐古ファンしか持たない過去に囚われ、その過去の人気を糧に食いつなぐ現状に流されて、前に進めない。そんな現実を自嘲気味に諦めながら日々を過ごしている。しかし、彼にチャンスが訪れる。現代のトップアイドルが自分のかつてのファンで、ラブソングを作曲してくれ、と依頼してきた。だが、かつてソロで一曲出して酷評されたっきり、ピアノには向かっていない。気鋭の作詞家と組んでみても、いまいちピンとこない。
 そんなさなかに、出会ったのが代理の植物係のソフィー(ドリュー)。彼女の中に、作詞の才能を見いだした主人公は彼女と一緒に作曲作業にとりかかる・・・。





 もしもピアノが弾けたなら、思いのすべてを歌にして・・・・ドリューに聞かせることだろう。



 そんな、願望を持つドリューファンのハートわしづかみ映画。歌が歌えて、曲が作れる能力もある、だけど過去に囚われて現実から逃げ続けるダメ男気質を持つ。そんな主人公・アレックスはヒュー・グラントにピタリとはまり、そこにキュートでダメ男に優しいけれど過去に傷ありな女を演じたら天下一品、ドリュー・バリモアと出会う。いい。いいですな!


 メロディは骨格。だが歌詞は歌の精神。
 最初はただの共同戦線。だが、互いに過去をさらけだし、コンプレックスを乗り越えていくことで、「現在」という名のラブソングは紡がれていく、という流れが非常にうまく絡み合っていて、面白い。作詞が紡がれていくべきは、自分たちの「現在」であり、「過去」は乗り越えるべきものである、という明確な意志を感じさせる。
 そしてもうひとつ。面白かったのは、当代随一と言われる女性アイドルスターのキャラ付け。彼女の中の弱さがオリエンタル趣味への傾倒へとつながっているんだけれども、そのアプローチは非常に上っ面をなめたまま、自らの弱さはそのままにされている、という現状がある。彼女もまた、人気を保つための空回りを続けて、自分の作った偶像に縛られたまま、アレックスという溺れた河に流れていた藁にすがってみたのだ。
 彼女が、二人の共同作業の結果を自分好みの形に変えてしまうのは、彼女自身の弱さゆえ。だが、それを見せずにスターとしての仮面を付け続ける女性を、新人女優ヘイリー・ベネットが、独特の存在感で見事に演じてみせている。
 そんな彼女の弱さからくる暴挙*1を打算で受け入れてしまうアレックスと、作詞の純粋さを信じるがゆえに頑なになるソフィーの、それぞれの葛藤。



 それらが絡み合いながら、クライマックスのライブシーンへとつながっている。ここで見せるアレックスの「大逆転」がお見事。自分をさらけ出した曲を、他人のライブで歌ってしまうアレックスの勇気、そして、傲慢なだけの女性のように見えたアイドルの中に見えた「純粋さ」を感じさせるクライマックス。泣くよな。俺がドリューならボロ泣きだよ。
 そして、そんな恋愛劇としてのクライマックスがダメ男の復活劇、一人の女性の成長とも絡み、幾重にも響き合う、ラブコメディの秀作である。(★★★★)

*1:川内康範先生推奨映画にすりゃあいいのにと思う。