虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「松ヶ根乱射事件」

toshi202007-03-21

監督:山下敦弘
脚本:佐藤久美子 / 向井康介 / 山下敦弘



 たまに関東近郊の温泉街に旅行して目的地から外れた場所に車で移動すると、基本的にさびれていたりする。かつてそれなりに栄えていたけど、左前になって次々と店がつぶれて、妙にさびしい商店街に出くわした時の、あの寂寥感たるや、筆舌に尽くしがたいものがある。
 本作はそんな、寂れたとある地方都市・松ヶ根を舞台にした作品である。ジャンルとしてはコメディである。しかも全体的にブラックな。


 狙っているところとしては「殺人の追憶」または「ファーゴ」のような、実在の事件、もしくはそれを描いているように見せかけたフェイク実録映画のような趣で描かれる。



 冒頭。一人の女が雪の中に倒れている。なぜ倒れているのか。わからない。少年が近づいてきて、意識がないのを確認すると、彼女の体をいじくりはじめる・・・という冒頭からして、才気を感じさせるのだけれど、やがて、その事件がきっかけとなり、とある兄弟とその家族に少なからぬ関わりをもつことになる。


 個性的にも関わらずどこにでもいそうな人々の、日常を淡々と切り取りつつ、そこにゆっくりとイレギュラーな事件がまぎれこんでいく。この演出がとにかくすげええええリアルで、その画の切り取り方がハンパない。キム兄こと木村祐一演じるなぞの男とその女が、主人公の兄をゆするときの、あの、なんともいえず救いようのない感じ、残酷でもないのに見ていられないあの「嫌ぁ」な感じとか、知恵おくれのサセ子の娘を親父が妊娠させてしまう話とか、もう、もう「うわあ」「いやあ」なエピソードが散発的に出てくる。
 日常の中に起こる、非日常な事件たち。だけど、それは彼らの人生を下落させることはあっても、上昇させることは決してなく、ゆっくりと真綿で首を締めるように、事件はひとつの家族を苦しめていく。


 俺、山下監督はすごいと思うんだよ。初めて見た作品は「リンダ、リンダ、リンダ」だけど、本作見てはじめて「あ、天才」と思った。そのくらい、天賦の才気を感じさせる作品ではあるんだよ。作り物に見えないんだもんな。俳優も世界に溶け込んでいて、本当にそこの住人みたい。特に三浦友和なんて、登場してもしばらく三浦友和だと気づかなかったくらい、「ダメ親父」として場面に同化していて、驚愕した。脚本も重層的に作りこんであって飽きさせることはない。こんなローテンションでこんな救いのない話を最後まで集中して見させてしまう力を持っている映画だ。
 だけど。だからこそ、俺にとってこの映画は見ていてつらかった。二度と見たいとは思わない。そのくらい。へこんだ。それだけこの映画の力は強い。強すぎる。
 そんな映画でないことは承知の上で、せめてせめて、うそでもいいから救いのある奇跡が見たかった。だってこんな閉塞感はさあ・・・


 現実世界だけでたくさんなんだよっ!!ぜえはあぜえはあ。


 ブラックコメディはある程度ハイテンションでやれば「フィクションでござい」な逃げ道があるんだけど、ローテンションでやられるとつらいだけなんだよ!まじで!時折笑える場面もあってさ。笑うんだけど。「あっはっはっは・・・あーあ」って最後にため息が混じる感じの笑い方になっちゃうんだよ。なんかね、金払って見たことを、ちょっと後悔したくらい落ち込む映画だった。


 どこまで行っても不幸せ。出口はぜんぜん見つからない。それならせめて銃を撃とう。だけど。俺にはその、銃すらねえよ、と。(★★★)