虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ハチワンダイバー」(柴田ヨクサル)




 上の文章は本来、この漫画についての文章を書こうと思ったら、バヤオ御大の新作についてのニュースやら、「華麗なる一族」の録画やらを見た結果、いい感じにブレンドされてしまった雑文で。改めて冷静になって読むと、かなりトンだこと書いてますな。


 というわけで、「ハチワンダイバー」である。私、久々に漫画を読んで電流が走ったというか、俺のスイッチにばしばしクル漫画を読んだ感じがします。つまり、傑作ということです。2巻しか出ていないですけど、もうすでに、俺の中では「これはすごい!」×100くらいの勢いで叫びだしそうなくらい、俺はこの漫画が好きです。大好きです。愛しています。ファッキン・ラブ!ってくらい<わかるか。


 年末に1巻を買って、その年のベスト漫画にしてしまうくらい、まあ気に入ってしまったわけですが、そのときは、まだ、物語が見えなかったんです。だけど、2巻読んだら・・・もう。これは!!って思いましたね。ゲームで言えば逆転裁判を初めてやって以来、映画で言えば「ショーシャンクの空に」で、刑務所の所長がポスターをベリッとやる、あの瞬間の興奮に近いです。


 主人公はですね。20年将棋一筋に生きてきた末に、プロになりそこねた青年で、それ以外のことはまるでボンクラという、まあ、そういう男です。職にもつけないから将棋センターで賭け将棋をやってくすぶっていたわけですけど、プロを目指していたから、当然そこらの親父じゃかなわないわけです。で、気がつけば誰も相手にしてくれなくなってたんだけれども、ある日とあるおっさんから、強い真剣師秋葉原にいる、と言われるわけです。二つ名を「秋葉の受け師」という、その真剣師に主人公は会いに行く。その「受け師」さんは地味目なカッコでめがねをかけた女性。くすぶっててもプロの卵で、アマ相手に無敗を誇っていた主人公は当然、負けるなんて思いもしていない。で対局してみたら、主人公は惨敗しちゃったわけです。
 20年間打ち込んできた将棋で、素人に負ける屈辱を味わった主人公は、とりあえず部屋を片付けようと思うわけですが、体力不足でなかなか片付かない。そこで片付けサービスを頼むわけですが、そこにやってきたのは、巨乳のメイドさん。そして、「アキバの受け師」さんでした・・・。



 とまあ、こんな導入の話ですわ。で、まあ、そこから主人公はなぜか部屋でメイドさんこと受け師さんと全財産を賭けて「真剣」で対局して、やっぱり負けてしまうわけです。メイドさん=アキバの受け師さんと将棋を打つための金を稼ぎに、どっぷり「真剣師」の道へとはまっていくわけです。人生将棋だけ、という男が、やっぱり将棋にはまる話なわけですが、彼を導くのが「受け師」さんという最強の真剣師メイドさん、という女性なわけです。
 勝ちたいから対局するのか、会いたいから対局するのか。たぶん彼にとっては両方なんですね。そして彼女に会うためには強くならなければいけない。金を貯めるためには負けられない。彼の最終目標は「打倒・受け師」なんだけれども、と同時に彼女「本体」も目的になっていく。という物語の巧妙さもさることながら、ゆずれない勝負の中で強敵・難敵に出会うことでプロを目指していたころにはたどり着けなかった81マスの「盤の下にある宇宙」へと潜る術を、ついに手に入れる。そして彼は名乗る。


 「ハチワンダイバー」と。


 この漫画は強烈なラブストーリーである。と同時に、世間から見ればクダラナイものであったとしても、真剣に向き合えばそこに「宇宙」を見られるという「真理」を描いた物語でもある。たとえ、それが真剣師でありホームレスである爺さんと、受け師さんの「おっぱい揉み権」をめぐってであろうとも、漫画家でもある真剣師との、「その後の人生」と「連載終了」を賭けた勝負であろうとも。
 その勝負自体には世間にとって価値はない。けれど、己にとっての価値のあるもののために「人生」すべてをかければ、そこには「真剣勝負」の深み、高みが見えてくる。


 そして、その「真理」はそのまま、物語に相対する、すべて人に通じる「真理」でもある。この漫画が、「物語」の神に愛された傑作である、と俺が思う所以はそこにある。