虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「エレクション」

toshi202007-03-07

原題:黒社會
監督:ジョニー・トー


 伝統と革新が交錯する香港。5万人の構成員を有する和連勝会では2年に一度、上級幹部による選挙によって会長が選ばれる伝統がある。かつて通信手段があまり発達していなかったころ。その結果は<竜頭棍>という龍をあしらった棒をわたすことで、伝えられた。通信手段が発達した現代、<竜頭棍>はただ、権力の象徴となった。
 <竜頭棍>を有するものこそが、権力を握られる。そのためには、伝統的な<選挙>を覆してでも手に入れてみせる。伝統を重んじない男が現れたことが、和連勝会を分裂させかねない騒動へと発展していく。


 権力を狙う2人の男。そしてそれに振り回される部下たちによる、権力の象徴を巡る敵味方入り乱れて、というか誰が敵で誰が味方か分からない中での暴力合戦。実際の香港黒社会は、あまり銃を使わず得物で殺し合う、という実態に基づき、ジョニー・トーのトレードマークともいうべき美しきガンアクションを封印し、その代わりに、珍妙な肉体責めの数々がスクリーンに展開して圧巻。誰が誰か分からないがゆえの暴力の理不尽と、それを笑い*1に変えるセンスはジョニー・トーらしいのだけれど、暴力が近接的になった分、より深くそして無様に人間がぶつかり合うので、より暴力の生々しさを増していて鬼気迫るものがある。


 歴史・伝統。長きに渡る重い掟が、新たなる世代に蹂躙されていく様を描きつつ、すべてが形骸化していく中で、権力への直接的な執着だけが残っていく。
 ラストはまさに、その象徴ではないかと思う。時代が変われば人も変わる。全てが実利的だったものが形骸化すれば、掟すら意味を為さない。伝統という枷をが外れ、歯止めを失った暴力はどこへ向かうのか。その行方は続編「エレクション2」の公開を待たねばならぬのだろう。(★★★★)

*1:相変わらず笑っていいのか悪いのかわからんのだけれど