虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「不都合な真実」

toshi202007-03-01

原題:An Inconvenient Truth
監督:デイビス・グッゲンハイム


 面白い。奇しくも今月1日に気象庁が、この冬が観測史上最も暖冬であると発表した今、この映画は十分に意義がある。なによりこれが、楽しい。そして恐ろしい。


 この手のドキュメンタリーはとりあえず見てもらうことが重要なんだけど、そこにアル・ゴアのキャラクターを媒介にすることで、それがエンターテイメントになるという。大統領選でブッシュを追いつめ、もしかしたら米・大統領になったかもしれなかった男が、長く環境問題を研究し、米国内のみならず、国外で1000以上の講演をしてきた、という事実。そんな男が、政治活動する中で長くその問題を説き続けながら、浸透しない現実。
 世界でも有数の権力を手に入れかけた男が、結局一から人々との対話の中でねばり強く闘ってきたという事実が提示され、その上で、地球の危機が詳細なデータと資料、そして政治家として鍛えたユーモアを交えた話術をもって理路整然と提示されていく様は、実に小気味いい。しかもこれは、彼がやっている講演の様子を切り取ったものに過ぎないということ事実が、面白い。


 あと、これが「アル・ゴアの政治戦略映画」みたいなことを言う人がたまにいるけれど、それは違うだろう、と思う。この映画で再び大統領に返り咲くための映画なわけがないと思う。


 まず。この映画が成功しない可能性があったことだ。結局のところ、この映画、マイケル・ムーアのような、手練手管をこの映画はあまり使っていない。アル・ゴアが長年集めてきたデータを提示する講演の様子と、彼の「環境問題」にこだわる理由だけを、編集でつなげただけの、比較的シンプルな構成だ。にも関わらず、彼の講演は、この問題を伝えたい、という真摯な思いに裏打ちされている実に分かりやすくかみ砕かれた言葉で語られ、この映画を支えている。だが、それだけでは保証にならない。
 そしてもうひとつ。彼は政敵を悪し様には決して言わない。ま、ちくりとやる場面はあるにせよ、それはあくまでも「アクセントとしてのジョーク」でしかないわけで、要は「一人でも多くこの問題を認識して行動できる人を増やしたい」というメッセージこそが重要なのだと思う。


 アル・ゴア氏の回想を交えない方がいい、という人もいるが、それも違う気がする。結局のところ、なぜ彼が環境にこだわるのか、というバックボーンが描かれなければ、彼の言葉は空虚だ。彼の口で彼がこの問題に執着する理由が語られるのは、映画としてはしごく真っ当だと思う。
 アメリカは未だ二酸化炭素排出量において世界で圧倒的な国であり、そこで世界最重要国の長になりかけた男が、我々の目線にたって語りかけている、ということ。そして多くの見返りを求めずに打ち込んでいる姿。
 その姿に、打算を見るか、否か。この映画についてどう思うかは自由だが、この映画のメッセージに耳をかたむければ「アル・ゴア物語」では決してない、とわかるはずである。とりあえず多くの人が見るべき映画だと思う。(★★★★)