虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「トンマッコルへようこそ」

toshi202006-10-30

監督・脚本:パク・クァンヒョン
脚本:チャン・ジン、キム・ジュン 音楽;久石譲


 ド田舎。思想、国家、戦争、文明とは無縁のザ・スローライフ桃源郷。その名、トンマッコル。


 まあ、名前なんてどうでもいいのである。直訳したら「純粋村」なのだ。ド田舎村でも、どうぶつの森でも、DASH村でも、風の谷でもいい。くう、ねる、はたらく、そしてあそぶ。潤沢な農作物、純朴な人々、豊かな自然。普遍のユートピア


 そこへ3人の異邦人。墜落した米軍のひとりのパイロット、偶然出会った韓国軍の兵士2人、追いつめられた北朝鮮の兵士3人。時は1950年代、ところは朝鮮半島。彼らは朝鮮戦争まっただ中の戦場からやってきた。


 民族や国家を越えた普遍の理想郷を描きながら、この物語は韓国、および朝鮮半島のおかれた地勢と、この映画は驚くほど緊密に描き出す。
 3者の出会ったときの緊張は、そのまま韓国周辺の状況と符合する。同じ民族でありながらテーブルを挟んで銃をつきつけあっているそれは、そのまま韓国の観客のリアルでもある。
 だが、そんな緊張とは無縁の住人と触れあううちに、徐々に兵士たちの緊張が解けて、民族や国家を越えて通じ合う。この映画が見せるのは、韓国人にとって夢の桃源郷。主義だ、思想だ、国家だ、というものの争いの最前線という緊張下に置かれた彼らの、大国に翻弄されたあげく同じ民族同士の殺し合ったトラウマとは無縁の、優しい世界。そんな世界が、色鮮やかで豊かなイメージの中で描かれるシーンに心なごまされる。村の「純朴」を象徴する、頭の弱い少女を演じるカン・ヘジョンも魅力的だ。韓国の観客の心をわしづかみにしたのも、この映画が紡ぎ出す見事なファンタジアゆえだろう。
 しかし、その桃源郷の外では、戦争が続いている。やがてその現実は、確実に村にも近づいていた・・・。


 兵士たちはふたたび銃をとる。だが、それは国のためでもなく、民族のためでもない。
 自分たちの「心」のために。


 普遍のファンタジーを材に採りながらも、寓話として力強く自らの現在と拮抗する、韓国映画の底力を見せつける秀作。(★★★★)